8.急性腸管虚血
#ブラッシュアップ急性腹症
1⃣分類
➀上腸間膜動脈閉塞症 SMAO:最多。心原性。起始から3-10cm末梢
②上腸間膜動脈血栓症:石灰化を伴う動脈硬化と狭窄がベースにある。起始部で閉塞・高度狭窄
③非閉塞性腸管虚血症 NOMI:透析患者、心臓血管術後、ICUなどで血管収縮薬使用
④上腸間膜静脈塞栓症
以下、病態がほぼ同じもの
⑤大動脈解離に伴う上腸間膜動脈閉塞:初期の腹痛が大事
⑥上腸間膜動脈解離に伴う閉塞
⑦小腸軸捻転:先天性の腸回転異常、腸間膜根部が短い(瘦せ身)
2⃣病歴 「sudden onsetで局在がはっきりしない」
➀hyperactive phase:血管疾患はsudden onset。腹部全般痛。「痛みの割には身体所見が乏しい」
②Paralytic phase:痛みが軽減してくる。虚血が遷延し、壊死に至る
③Shock phase:虚血壊死に至った小腸から細菌性腹膜炎および敗血症が進行。腸管壊死による代謝性アシドーシスと代償による頻呼吸。皮膚に(特に下肢)紫色の網状斑が出現。呼吸障害と同時に意識レベルも低下
【危険因子】
不整脈とくに心房細動
弁疾患・弁置換後
ワーファリンを服薬している
動脈血栓塞栓症の既往
透析
心臓血管手術後
血管収縮薬
他の原因でのショック
abdominal anginaはなかったか?同様の痛みや腹部の違和感を食後に感じなかったか?
3⃣身体所見
虫垂炎や上部消化管穿孔とは違って疾患特異的な身体所見は存在しない
強い腹痛の割に腸雑音は正常。圧痛点なし
腹部の冷感:胸や側腹部は温かいのに腹部(特に下腹部)は冷たい
柔らかい=腹膜刺激症状なし<20250623 マツケン"out of proportion">
心房細動などの原疾患があり塞栓症が疑われる場合は
四肢の動脈触知・左右差
神経学的所見(脳梗塞)
➀評価と②今後新たな塞栓が発生したときの比較のため
腸管壊死が進み、腹膜炎の状態となれば、反発性腹膜炎として反跳痛・筋性防御が出現
4⃣初期診断と鑑別疾患
虚血の段階 →sudden onsetである血管系の疾患
破裂性腹部大動脈
大動脈解離
汎発性腹膜炎になった後
下部消化管穿孔
絞扼性腸閉塞
小腸軸捻転
【腸管虚血を診断した際に注意すべきこと】
➀SMAOの場合
血栓が次にどこに詰まるかわからない(脳梗塞)。既に塞栓があるかもしれない
血栓の原因:心房細動による左房内血栓。ときにIEによる菌塊。PFOが存在するためのDVTによる血栓
②NOMIの場合
虚血部位は腸管だけなのか?重度のショックや心機能低下によって全身が虚血状態となっていてその一部としての腸管虚血をみているにすぎないかもしれない
5⃣検査
➀血液検査 発症早期に有用な特異的検査なし
乳酸値上昇(感度77-100、特異度42)
血清AMY(半数で上昇)
D-dimer上昇>0.9mg/L(感度60、特異度82)
代謝性アシドーシス 発症早期に出現しにくい
ICUに入るほどの重症で「わけのわからない代謝性アシドーシスは腸管虚血を疑え!」
②CXR 特異的所見なし
早期:小腸ガスがみえるくらい
腸管壊死:麻痺性イレウス。びまん性腸管拡張(腸炎でもみとめる)
③腹部超音波
カラードプラでフローがない→SMAO
NOMIや血栓症では難しい
腸管自体は早期には特異的所見はなく蠕動もある
虚血が進行すれば虚血範囲の腸管粘膜を中心に壁肥厚し、壊死すれば粘膜が脱落して襞が確認しにくくなる
腹水は出現しにくい。血流自体が減るから。絞扼性腸閉塞はうっ血して腹水
中等度以上の腹水があり血性腹水が引けたら壊死している
④腹部CT 腸管虚血を疑ったときのゴールドスタンダード
血管評価もしたいのでかのうならば動脈相を確認できるダイナミックCT
SMAOと血栓症は診断可能
腸管虚血の有無も判別できる場合もあるが、造影効果があること自体は虚血がないことの否定にはならない
すでに壊死している場合:腸管壁内ガス・門脈内のガス(10%の確率で腸管壊死以外でも起こる)
ショックに伴って腎機能低下が危惧されれば造影CTでの評価の意義は低い
⑤血管造影 血管内治療としての意義
腹膜炎に至っていない血栓塞栓症に対しての血栓溶解療法
6⃣確定診断
血栓症・塞栓症はCT
NOMIと言われて驚かなければNOMI
7⃣治療
➀上腸間膜動脈閉塞症 SMAO
抗凝固薬(ヘパリン)開始
手術:血栓除去術、壊死腸管があれば切除
カテーテルによる血栓溶解療法
発症8h以内、腹膜刺激症状なし、血栓溶解療法の禁忌なし
4h以内に血栓が溶けない、もしくは腸管壊死の症状が出現する場合は手術へ
治療が奏功して生き残った場合にはワーファリンの使用が再発を減少させる
8⃣予後
死亡率は高い。
短腸症候群