固有名詞に関する学士院推奨
エスペラント学士院
公式通知
第22号 – 2013 10 10
固有名詞に関する学士院推奨
1. 序論
1.1
エスペラントにおいて固有名詞を扱う以下の3つの方式が実用され、存在している:
a) 完全なエスペラント化。多くの重要な地理的名称 (例 Afriko, Nov-Jorko, Bulonjo-ĉe-Maro, Rejno, Himalajo) および歴史的に重要な人物名 (例 Konfuceo, Julio Cezaro, Ŝekspiro) に現用されている。完全にエスペラント化されている固有名詞には、必ず次の特徴がみられる:
1. 音声形態には28個のエスペラント音のみを用い、書記形態はエスペラント文字で示されること。
2. (全てのエスペラントの名詞に必要な 注1) 語尾 "-o" を持つこと。注2 3. 発音はエスペラントの発音原則にしたがうこと。
なお、完全なエスペラント化においてはエスペラントにまれな音の組み合わせは避けられる傾向にある。
b) 部分的なエスペラント化。これはエスペラントの規則にしたがって文字が発音されることを特徴とする。ただしアクセントはエスペラントの規則とは異なる場合がある (例 Zamenhof, Gamal Abdel Naser kaj Ban Ki-mun)。
c) 固有名詞の原語における綴りの使用 (伝統的には、原語での名前がラテンアルファベット文字で書かれている場合にのみ用いられる、例 Kálmán Kalocsay) または原語ではラテン文字以外の書字体系で書かれている固有名の、受け入れられている体系的方法による何らかのラテン文字化(例 Dèng Xiǎopíng のような中国語固有名のピンイン転写).
1.2
加えて、 (完全・部分を問わず) エスペラント化では他言語 注3 にもとづき、3つの異なる方法をとる。 a) 原語における発音にもとづく方法。例 Ŝekspiro、Budapeŝto。
b) 原語における綴りにもとづく方法。例 Londono、Freŭdo.
c) 原語における意味にもとづく方法。例 Nigra Maro、Bonaero。
これらエスペラント化の方法のうち2つまたは3つの折衷がよく使われる。例 Alzaco (原語の綴りと発音にもとづく)、Santiago de Ĉilio (原語の綴りと意味にもとづく)、Nov-Jorko (原語の意味と発音にもとづく)。
2. 当院の認識
2.1
1.1で触れた3つの方式 (a-c) にはそれぞれ利点、欠点がある:
a) 完全なエスペラント化はエスペラントの精神に適合し、口語での使用に適し、即時かつ明解な単語派生を可能とし、さらにどの言語・書字体系に由来する語であっても利便性が高まる。しかしながらこれは固有名詞の特定、識別を困難にすることがある; また、常に最適な語形を簡単に選び出せるとは限らない (多くの場合、翻訳習慣の蓄積によって決めることとなる)。
b) 部分的なエスペラント化は固有名詞の読み取りと発音を容易にする (アクセントの位置が示されていればより容易である)、しかしエスペラント語尾がなければ、普通のエスペラント単語として扱うことができない。この方式はラテンアルファベット (およびその変種) 以外のアルファベットを用いる言語と書字体系に対し多く特に使われる。
c) 原語でのラテン文字による固有名詞は (常にではないが) 多くの場合 (特にその原語がラテンアルファベットおよびその変種を用いている場合) 、書字形態からの容易な認識を可能にするが、反面、容易な単語派生を不可能にし、口語で使用する場面で多くの問題と誤解が懸念される。
2.2
以上のことから、エスペラントで様々な固有名詞を扱う方法を一つだけ推奨することは、現時点では不可能である。
3. 当院の推奨
3.1
上記方式のうちいずれかを選び (様々な状況、必要な目的に応じて) 常にそれぞれの具体的な場合においてそれぞれの方式が引き起すと考えられる利点・欠点を考慮・比較して用いるべきである。
3.2
特に次の場合、頻繁に使われる固有名詞名詞を完全にエスペラント化する習慣は引き続き維持するよう配慮されたい:
a) 頻繁に必要とされ言及される物事 (例 コンピュータ関連名称 Vindozo, Linukso, Guglo).
b) 広く知られた固有名 (例 大都市またはその他地理的場所; 著名な歴史的人物名, 例 Komenio, Voltero, Ejnŝtejno, Baĥo) または、容易な単語派生の可能性が必要とされるあらゆる名前 (主に科学において。例 Galvano – galvanismo, Koŝio – koŝia vico).
c) ある文書で頻繁に繰り返される固有名詞 (例 長い説明文書の主対象、または文学作品における主要な登場人物の名前; 例 sinjoro Tadeo).
3.3
様々な言語の固有名詞をエスペラント化するための広く受容された原則がない現状では、実用の伝統を模範としてこれに従うことが推奨される: 特に、原語の発音をエスペラント文字に直接転写したり、書字形態を単純に写して語尾 "-o" を付け足すだけで十分だとは限らないことに留意されたい。エスペラント化した結果が、発音、書字、特定の容易さなど各側面の均整がとれているか配慮する必要がある。名前あるいは名前の一部を意味的に翻訳することは、原語での形態にエスペラントとの相似が見られる場合には問題なく可能ではあるが、このような方法は、様々な言語で発音と綴りよりもその意味が共通して用いられている (Nigra Maro のような) 場合においてのみ非常に望ましい。
3.4
さらに、エスペラントの音声的特徴についても考慮しなければならない: エスペラント化では、音節として発音しなければならない ( Brno 注4 の "r" のような) 子音群を含んではならない。また、音のまれな組み合わせ、特に多くのエスペラント話者にとって、より一般的な音の組と区別することが難しい (Rŭando 注5 の "rŭ"、Hongkongo 注6 の "ngk" は、多くの人が "ru" や "nk" と同じように発音するであろう) 場合も、避けることが望ましい。 3.5
比較的新しい、またはあまりよく知られていない (ただし上記の考察により特定の場合にどうしても必要な) エスペラント化については、誤解を防ぐため、できる限り括弧または脚注でその固有名の原語における語形態を示すこと。
3.6
エスペラント化されていない固有名詞にはできるだけ以下の要件に適合した発音表示を添えること:
a) 発音表示はその固有名詞が初めて現れるところに、角、または丸括弧で、すべて小文字で提示されなければならない。
b) 発音表示は原則としてエスペラント文字のみを用いなければならない (その言語の発音に対応するエスペラント音がない場合には、近似音を用いる。これにより音声情報を失う場合でも、最も近いエスペラント音で代表する)。
c) アクセントを表示するためには、アクセントが置かれる母音の上に右上がりツノ印を置くことが好ましい (これはエスペラントの基礎にも模範が示されている), 例 [gastón varengjén]; 符号の使用が困難な場合は、アクセントが置かれる母音を大文字で示す。 (例 [gastOn varengjEn]).
注意 3.6.1.
専門的、または百科事典的な文書では、非ラテン文字による書字であっても、様々な言語での固有名を原語の形態で自由に示すことができる。ただし非ラテン文字による場合、ラテン文字による (完全または部分エスペラント化による) 形態表示、または発音表示の併記が望まれる。
注意 3.6.2.
正確な発音の提示が特に重要であるような特別な場合、別形態の発音表示も提示することができる (例えば、国際音声字母、または何らかの印刷記号および手段による)。ただし、全てのエスペランティストに等しく理解される体系は、エスペラント文字だけであることに留意されたい。
3.7
それぞれのエスペランティストはエスペラント環境で自らの名前をどの形態をもって用いるかは自らが決めることができる。しかしまったくエスペラント化されていない語形態は、エスペラントの文書では常に見慣れないものとみなされるであろうこと、また、名前の複写その他の再使用に際して誤読や誤記がありうることに留意されたい。
4.
この推奨は、エスペラント学士院による1989年「固有名についての推奨」 (学士院公式文書第III集1975 – 1991, エスペラント学士院公式年鑑第11号) を完全に置き換える。これにより旧推奨はエスペラント学士院による有効な推奨としての役割を喪失する。
/icons/hr.icon
エスペラント学士院役員会および音声学科:
Christer Kiselman, 代表; Brian Moon, 副代表; Probal Dasgupta, 副代表兼音声学科長; Renato Corsetti, 書記.
/icons/hr.icon
注1: 語尾がエスペラントの語幹につく場合、語幹には最低一つの音節がなければならない。したがって、Bo という名前は不完全なエスペラント化ではなく、部分的なエスペラント化であると見なすべきである。 注2: この原則は題名の引用には適用されない。例えばシェークスピアの喜劇名 Kiel plaĉas al vi お気に召すまま は名詞語尾がない。ほかにも Amplifiki や Kore など、名詞以外の語形をとる音楽バンド名もこれをそのまま無語尾の固有名詞とみなす。ウェブサイト lernu! のように名称の中に符号を含む固有名詞も同様である。 注3: エスペラント化は、原語や(地名であれば)その場所で話されている言語に基づくとは限らない。例えばデンマークの首都 Kopenhago は当地では København [kebmháŭn, ケブムハーウン] と呼ばれるが、多くのヨーロッパ語でコペンハーゲンのように呼ばれるのでエスペラントもそれらに基づいている。 注4: ドイツ語やラテン系言語を参考に Bruno とするのが好ましかろう (チェコ第二の都市)。 注5: Ruando という語形が好ましい (アフリカの国家)。 注6: Honkongo という語形が好ましい (中国の特別行政区)。