まっぷたつの子爵
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書誌情報
同、晶文社〈文学のおくりもの〉シリーズ、1997年
原題 : Il Visconte Dimezzato
発表年 : 1952年
内容
1950年代に入ってカルヴィーノは、それまでのリアリズム路線と一線を画した小説を書きはじめる。その最初の一冊となったのが本作だ。
はじめ血腥い戦場に置かれていた舞台は、一転して自然豊かな子爵の故郷へ移される。トルコ軍の撃った砲弾によって「悪半」と「善半」に分裂してしまった子爵のふるまいが、彼の甥っ子の視点を借りて描かれる。
ずっと後になってから、『冬の夜ひとりの旅人が』の登場人物に「昔は物語の終わり方が二つしかありませんでした、いろんな試練を経て、主人公と女主人公が結婚するかそれとも死んでしまうかでした。」と語らせているように、メダルド子爵の物語が結婚によってしめくくられたあとにも、この話には少しの続きが残される。それは民話の外側にあって、それまで語り手として登場してきた甥の前に立ちはだかる「責任と鬼火に満ちた」世界についての苦々しい述懐だ。 民話的宇宙の中で繰り広げられるイメージの操作と、私たち自身をとりまく問題の橋渡しについて、このときのカルヴィーノはまだ答えを見つけられないでいるように見える。