隣接界
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新書判 592ページ
定価 2,500円+税
入手難度は低い
発表は2013年
七〇歳。一夜にして築き上げられた干渉不能性の大伽藍
概要
現時点での最新邦訳作だ。
〈夢幻諸島〉連作に一応の端点(前述の「ヤネット」)を設けたあとで、奇術師プリーストは愛用してきた小道具をいまいちど全てテーブルに広げて磨きなおし、それらをさまざまに組み合わせて新しいマジックを作り上げた。
執筆に長い年月を費やした『夢幻諸島から』とは対照的に、『隣接界』の執筆期間は驚くほどに短く見える。この作家の頭の中にはきっと、人物や風土、ガジェットの描き方と、それらを何のためにどう用いればいいかという情報が明晰な形で溜め込まれているのだろう。そこに『夢幻諸島から』で培った抜群の構成力を組み合わせることによって、高速にこのような大作をものすことが可能になったのではないか。
読みどころなど
個人の側からは理解することも制御することも困難な力(世界の隣接性を制御する次元兵器、不気味に屹立する謎の塔)によって分断が進行する世界の中で、失った配偶者との一筋のつながりを信じつづけようとするこの物語は、現代社会の不安を鏡のように映し出してもいる。
本作はプリースト作品にしてはやや珍しく、落ち着いたハッピーエンドによって閉じられる。これは恣意的な読みかもしれないが、終わることのない不安なシーソーゲームを描き続けてきた作家のこの変化に、評者はある種の疲弊の色を読み取らずにはいられない。
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