ヤーヴィンのフォーマリズムをタカハトゲームで分析しようとした形跡
あまりフォーマリズムと関係づけられない気がしてきたので分離した
タカハトゲーム (Hawk-Dove Game)
ヤーヴィン自身は触れていないが、資源をめぐる衝突は、ゲーム理論におけるタカハトゲームと関係が深いため、タカハトゲームを使って分析していくことにする
上の軍拡競争モデルだったらタカハトゲームより囚人のジレンマになるけど
追記: タカハトゲームより、レントシーキングモデルのほうがヤーヴィンのいいたいことに近い可能性がある
所有権のモデルとしてタカハトゲームが使われてるから使ってみただけで、実際ヤーヴィンの言ってることとそこまで関係づけられなそう
ヤーヴィンはフォーマリズムという名前をつけた割に、自分のイデオロギーの形式化を怠っているようなので (悪口)、私が代わりにゲーム理論的に考察してみた
まあ怠っているというよりは、数学的モデルを嫌っているのだろうけど
ヤーヴィンは、「責任と権限の一致」「フォーマルとリアル」「所有権」「政治」「権力が強い / 弱い」のような、定義の曖昧な自然言語による抽象に頼ってやっているなあ
(可能なツッコミ: このような利得表を書くことはフォーマリズムの主張を支持するのではなく、単に前提としてしまうだけではないか。それはせいぜい単なる言い換えにすぎないのではないか。)
利得について、戦いの代償が普通思われているよりも大きいという、実質的な主張がフォーマリズムには含まれているのでは
table:hawk_dove
A/B タカ ハト
タカ -25,-25 50, 0
ハト 0,50 25,25
https://youtu.be/YNMkADpvO4w?t=723
「タカ」は「資源の (他人の許可を得ない) 利用/コントロール」などと読み替えられ、「ハト」は利用を諦めるというようなことと読み替えられる
タカハトゲームはナッシュ均衡が2つある。
ナッシュ均衡は「A:タカ, B:ハト」と「A:ハト, B:タカ」である
ナッシュ均衡というのは、どちらのプレイヤーも他のプレイヤーの選択を同じにしたまま自分の選択肢を変えることで得できない選択肢の組み合わせを指す
どちらの均衡も、誰かの手を変えることによって誰も損させずに誰かを得させることはできない状態、パレート効率でもある
(この場合それに加え「A:ハト,B:ハト」もパレート効率であるが、あまり重要ではない)
均衡を1つに絞る手段による衝突の防止
多均衡ゲームでは「どの均衡を選ぶべきか?」という問題が発生する
(待ち合わせ場所、右側通行/左側通行)
そこで相手も分かってくれると期待できるような顕著な選択肢を選ぶことで「タカ, タカ」のようなどちらにとってもよろしくない状態を回避できる。このような顕著な選択パターンをシェリングポイントという
前と同じパターンで選択することも一種のシェリングポイントである (先例)
ただし先例が両方のプレイヤーに認知されている必要があり、相手が認知して利用するという予測のもと先例に従うわけなので、相手がそれを認知しているということも認知している必要がある
この意味でも知識は重要であるし、後に説明する意味でも知識が重要だと言える
// ヤーヴィンのいう「フォーマル」という概念や、「不確実性が衝突を生む」という主張を定式化するために知識概念に言及した
「最初に取得した者が使用する」など、所有権のような法律や慣習がシェリングポイントとして働くと考えられる
動物の縄張りや順位制もタカハトゲームとして議論される
それに対して、個体間の優劣が判明すれば、それ以降は闘争を避ける仕組みがあれば、そのような衝突は少なくなるはずである。この例が順位制である。順位制 - Wikipedia つつきの順序
フォーマリズムには、ある人の利益が他の人の利益より優先されるような制度であっても、そのような制度を変えようとすることは frictionに導くからと言う理由で不正とみなさない (身分制、カースト制の肯定) みたいな帰結がありそう。
財産の分配についてそのような帰結を持つことは明らかだけど、財産以外の権利についても当てはまる
↑(ヤーヴィンの前提に反して) 利益の分配と意思決定の権力は別という話
所有権という言い方だと同じに見える
株主は意思決定の権力と利益の分配を両方持っている
でも、ハト (タカハトゲームのハトではなく、動物のハト) においては利益の分配と意思決定の権力は別らしい
自分の縄張りの中ではタカ、外ではハトとして振る舞う戦略をブルジョア戦略といい(メイナード=スミス)、純粋なハトだけを使う戦略やタカだけを使う戦略より安定であることが分かっているらしい。また、常に衝突が避けられるため、プレイヤーが混合戦略を用いる均衡よりも利得が大きい (混合戦略の場合は、一定の確率で「タカ、タカ」となる)。
ブルジョア戦略は相関均衡の一種である。相関均衡は混合戦略と似ているが、コインフリップのようなランダムな要因に合わせて1プレイヤーの挙動を動かす代わりに、複数のプレイヤーが同じコインフリップの結果を参照して行動を決める。たとえば、表ならコインを振った方のプレイヤーがタカで他方がハト、裏ならコインを振ったほうのプレイヤーがハトで他方がタカというように。こうすることで、常に衝突が避けられるため、みんな利得が大きくなる。動物の縄張りの場合、「いまどちらの縄張りの中にいるか」という事象がコインフリップと同じ役割をしている。(Bryan Skyrms Evolution of The Social Contract)
ハーバート・ギンタスによると、プロスペクト理論でモデル化されている損失回避はブルジョア戦略を実現するための進化的な適応 ! ! ?
共有という選択肢が無い場合:
table:battle_of_sexes
A/B タカ ハト
タカ -25,-25 50, 0
ハト 0,50 0,0
「男女の争い」と呼ばれるコーディネーションゲームとほぼ同じ
(政府の法律というのが、実は刑罰によるインセンティブによって行動を変える(もとある均衡とはまったく別の均衡にする)というだけではなくて、このように複数ある均衡から1つの均衡を決定する役割があるということは、デイヴィッド・フリードマンが指摘している)
ヤーヴィンのフォーマリズムで重要なのは勝敗が不確実な場合であるため、2つの利得のどっちになるかわからない状況を考える:
Aが勝つケース:
table:a_win
A/B タカ ハト
タカ 35,-25 50,0
ハト 0,50 25,25
Bが勝つケース:
table:b_win
A/B タカ ハト
タカ -25,35 50,0
ハト 0,50 25,25
仮にどちらも自分は5/6より大きい確率で勝てると思っているとすると、Aがタカを選んだ場合の期待利得は$ 35 \times \frac{5}{6} -25\times \frac{1}{6} = \frac{175 - 25}{6} = \frac{150}{6} = 25となり、Bがどっちで来るにせよ自分がハトの場合の利得を下回らない
Bから見ても同じなので、両方ともタカを選択することになり、衝突が回避できない
「A:ハト, B:ハト」の利得が高いのが影響して両方5/6という大きな値じゃないといけなくなってる
所有権というのは両方使わないという状況の効用はほんらい小さいのでは
所有権とは争いの結果を事前に予測可能にすることによって衝突(「A:タカ, B:タカ」) を抑止するための道具である それは (通常のタカハトゲームの場合) 均衡選択の問題とも考えられるし、(勝利・敗北付きタカハトゲームの場合) 利得行列の問題とも考えられる
ゲームの利得・確率を改変する手段による衝突の抑止
両方タカを避けるための方法: とりあえずBがタカにならないようにすることを考える。
Bがタカ選択の場合の利得の期待値を下げればよいので、
1. Bが勝った場合か負けた場合、あるいは両方のBの利得を小さい値にする (刑罰) / そしてそのことをBに事前に認識させる
2. または、Bにとっての自身の主観的な勝利確率を下げる (Aの勝利を明確に)
(1)(2) がAにも認識されているべき (そうでないとAはハトを選ぶかもしれない)(それでも別にパレート効率だからいいじゃない?) いや、Aに認識されているとBが知らないなら、Bがハトを選ぶことにはならない。あくまでAがタカで来るからBはハトを選ぶんだよね。
フォーマリズムが考えてるのは(2)だよね。あと勝利確率を下げるというのは、連続値では考えてなくて、勝利確率 0 にするって考えてるよね。
認識というのは通常のゲーム理論ではわざわざ書かずに前提されている (利得行列は共有知識とされている) が、ここでは明記した