表現主義
Expressionismus(独), Expressionism(英)
20世紀半ば以降には、「抽象表現主義」や「新表現主義」などと呼ばれる潮流も生まれた。表現主義の語は建築、音楽、舞踊、文学などの領域でも使用されるが、狭義には、20世紀初頭のヨーロッパで生じたフォーヴィスムから「ブリュッケ(橋)」や「青騎士(ブラウエ・ライター)」の活動へと至る一連の流れを指すことが多い。デア・シュトゥルム画廊が発刊した同名の雑誌で、1911年に表現主義の概念がより限定的にドイツを中心とした当時の芸術動向を表わすものとして使用されたのが初期の使用例である。そのため、時代的には、それ以前の印象派やポスト印象派とは逆の語義(Impressionismに対するExpressionism)を持つことが意識されていたことになる。 1905年には、固有色を無視した強烈な色彩と筆触によって後の抽象絵画の展開に繋がる絵画的実験を行なったブリュッケがドイツのドレスデンで結成された。ブリュッケの中心的画家エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナーは、ベルリンの街を遊歩する人々を対象として、都市社会の神経的な刺激作用を表現主義的な様式で描き出したが、彼らはほかにもパラオ諸島の彫刻、中世ドイツの木版画、アフリカ・オセアニア美術、エトルスク美術などの土俗的・原始的な文化様式を「発見」し、それらを現代生活の感情的・精神的形式と通底させようとした。このように、原始性において来るべき民衆の姿を(再)発見するという過程は、エジプトや東洋の芸術、民俗芸術、児童画を年刊誌『青騎士』で紹介した「青騎士」(1911年結成)にも通じるものである。 参考文献
『ドイツ表現主義5:表現主義の理論と運動』,河出書房新社,1972
『ドイツ表現主義4:表現主義の美術・音楽』,河出書房新社,1971
『ドイツ表現主義の世界:美術と音楽をめぐって』,神林恒道編,法律文化社,1995
『ドイツ表現主義の芸術』,土肥美夫,岩波書店,1991
『ドイツ表現主義の誕生』,早崎守俊,三修社,1996
『表現主義の建築(SD選書)』,ヴォルフガング・ペーント(長谷川章訳),鹿島出版会,1988
『完全版 夜の画家たち:表現主義の芸術』,坂崎乙郎,平凡社,2000
著者:沢山遼