複式夢幻能
ふくしきむげんのう
複式夢幻能とは、夢幻能の中で、複式能(二場物)である曲を言う。典型的な例としては、《敦盛》《高砂》などが挙げられる。 典型的な複式夢幻能の前シテと後シテは、登場する姿は異なっていても同一のキャラクタを持っている。すなわち、前場がシテのキャラクタのほのめかし、後場がその種明かしといった内容になっており、後場への鑑賞者の期待を膨らませるのが、前場の担う役割の一つでもある。
複式能の中で最も多い形態は、ある出物(人物や鬼神)が前場ではそれとわからぬ姿で登場し、後場にそれがはっきりとわかる姿で再登場するものである。たとえば《敦盛》がそれに当たる。《敦盛》の前シテ「草刈男」と後シテの「平敦盛」は、どちらも平敦盛の幽霊であり、それが別の姿で現れたものである。中入にはアイの里人による「間語リ」がある。この《敦盛》のように、後場に幽霊が生前の、古典文学において有名な姿で現れるような形式を、特に複式夢幻能と呼ぶ。