第9回歌人・短歌紹介レジュメ
日程:12月19日
テーマ:川野芽生『Lilith』
戦い、もしくは告発としての短歌
あとがきより
「文学は権力そのものになって人間を追い詰めることが容易にできます。しかし私は、言葉の内包する構造にそのまま操られることなく、言葉と刺し違える覚悟を持つこと、それこそが文学の役割であると信じています。」
抜粋
Ⅰ anywhere
「廃園にあらねど荒ぶれる庭よわれらを生きながら閉ぢ籠めて」
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「生者より生者は産まれこのあした蠱毒のごとき辛夷咲きゐる」
*「辛夷(こぶし)は花の名前」
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「あをき雉鳩つがひとなりて来たりけり 彼方(あなた)よりもろき枝をくはへて」
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「海の画を見終へてひとは振り向きぬその海よりいま来たりしやうに」
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「人よりも傘はもろきをきりぎりに気流みだるる空(くう)に差し出づ」
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「幾重もの瞼を順にひらきゆき薔薇が一個の眼となることを」
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「炭酸水うつくし 魚やわたくしが棲むまでもなく泡を吐きゐる」
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Ⅱ out of
「夜の森へ消ゆるわれらの背はひかる 城のかたちに火は燃えゐるを」
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「エル・ドラド、アヴァロン、エデン、シャングリラ 楽園の名がいだく濁音」
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「身のうちに海蛇を孵す海ありてひかりを月の面(も)へ零しゐる」
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「太陽より果汁のごときもの搾り春といふわが巨いなる右手(めて)」
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「月といふ卵透けつつ毀れゆき竜をこの世の外へ逃がせり」
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「人の世の春に鱗(いろこ)は散りしけりとほき代にまた竜を生むべく」
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「丘の上(へ)に老天使翼(はね)をひろげゐてさくら、とひとはそを指さしぬ」
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「襟のごと海を縁取る港街あり誰もみな貌をもらざる」
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「瞼なき魚(うお)匿(かくま)ひて灼かれしか瞼なき海は眼を逸らさざる」
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「朝なさな竜相食みて堕ちゆける空の翠の炎えたつばかり」
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Ⅲ the world
「harass とは猟犬をけしかける声 その鹿がつかれはてて死ぬまで」
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「敗北と屈服の差は (燃やさるる星) 屈服と承認の差は」
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「たれも追はずたれも衛らず生きたまへ青年よいまここが対岸」
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「子守唄くりかへしくちずさむごとくあなたも擁きしめる偏見を」
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「愛は火のやうに降りつつ <Amen.>(まことに) を言へないままに終はる礼拝」
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