短歌推敲のガイド
個人scrapboxで取っていたメモですが、参考になると思ったので、共有します。rickshinmi.icon
添削のポイント
守るべきもの
最初300首ぐらいは定型を守ったほうがいいらしい
余白に甘えない
自分の頭の中に浮かんでいる像を相手も完璧に浮かび上げれるようにする
車椅子の女の靴の純白をエレベーターが開くまで見る
「白い」ではなく「純白」にする
予定調和的な表現を可能な限り避ける
どちらかといえば「ベトベト光る」
困ったら雨を降らせろ月を出せ花を咲かせろ鳥を飛ばせろ風を吹かせろひかれ誰か、何かを待て時間空の様子、季節を述べろ 親しみがないからこそ一首を引き締めるいい道具になる
脳死で「東へ西へ」とかやっちゃうこと
北へ東へってやった方が面白いかもって時もある
意味の重なりを削る
走馬灯選べるならばお願いだ君との記憶2時間コースで
って歌を詠んだ時、先生に「選べるならば」と「お願いだ」の意味が重なってるとの指摘を受けた。
短い定型詩である以上、可能な限り避けた方がいいのかなぁとは思っている
これの改善後は現在大会に出していて公の場所で発表すると既発表歌とされてしまうので、ここには書けませんごめんなさい!DMだったら大丈夫だと思うので、ぜひ。
さらに良くするためにやるべきこと
遊び倒す
言葉の選択によってスペースを作る、そのスペースに詰め込む、別の視点から書いてみる、他のバリエーションを作る、
半分の虹は地面の下にありその七色を死者は見ている
これ単体でもいい歌かもしれないけど
「地面の下にあり」という説明に無駄な文字数を使いすぎている
「死者」はどこから半分の虹を見ているのか
「人間」なら火葬され魂は天上にあるというのが一般的な感覚なのでは?
半分の虹は地中に隠されて埋まる金魚の目に写ってる
重なりとか説明的な部分、死体の場所を庭に埋められてるイメージにすることで違和感が解消できた
隠されているのはなぜか
「映ってる」といういぬき言葉
「埋まる金魚」という表現
「目に映る」のは(映ったとしても)土だけではないか?
土葬されている金魚は見ているか地中に埋まる半分の虹
語順を変更した
「土葬され/ている」という句跨りの違和感
土葬されている/見ているの繰り返し
地上の二次と地中の虹を主体と金魚が同時に見ている表現にできないか?
そもそも虹を輪っかのようなものにできていると伝えきれるか?
虹 土葬された金魚は見ているか地中に埋まるもう半輪を
と同じ構成にしてみるなど
推敲の実例
省略と具体性
リズム良くなる笛の音クロールの水飛沫も君だと思う
クロールの水の飛沫が君だったエイトビートでループする笛
指摘ポイント
「リズム良くなる笛の音」は具体的にどうなっているのか?
「笛」と書けば「鳴る」「音」は省略可能となっている
これらの解決策として「エイトビートでループする笛」
上手いな〜rickshinmi.icon
「クロールの水飛沫も君だと思う」の77を「クロールの水の飛沫が君だった」に変えて上の句に持ってきている
下句の「も」を「が」とすることによって視界の焦点を絞る
最終的に上の句で「クロールの水の飛沫が君だった」から「水の飛沫」で「君」とわかるぐらい「君」が好きな様子を表現し、それを「ループする笛」の音で頭の中で繰り返して思い出す様子を表現している
枝葉を断つ
すおーんと近づいてくるプリウスに轢かれた青年 3マス戻る
すおーんと近づいてくるプリウスが生年を轢きすおーんと去る
擬音語の「すおーん」を活かすために人生ゲームを外から見ている神のような二重構造は果たして適切なのか?人生ゲームでいいのか?という問いが必要
すおーんと近づいてくるプリウスに轢かれた青年 30いいね
というようにSNSを舞台にすることも可能だが「すおーん」を邪魔しているようにも見える
そうかなぁ?rickshinmi.icon
枝葉を絶って、花を魅せる
身体感覚
静寂の眠りの海に潜れない体が浮いて打ち寄せられる
あたたかいねむりの海へ潜れずに朝の岸辺に打ち上げられる
「静寂」はこのままでいい気がするけど、身体感覚を表現するために「あたたかい」に変更
「潜れない」と「浮いて」はどちらも「身体」が海面上に存在している状態を書いているから「浮いて」を省く
残した「潜れない」はは積極的に眠ろうとしているけれど寝れないということを表現するために「潜れずに」という形にした
「身体」は書かなくても伝わるので省略
どこへ打ち寄せられるのか?という疑問を「朝の岸辺」と表現
生物が海岸に横渡っている場合「打ち上げられる」の方が適切なのでそうする
類語を探す
点滅の横断歩道を駆けるときみたいな速度できみに会いたい
点滅のゼブラゾーンを駆け抜ける時の速度できみと会いたい
定型に収めるために「ゼブラゾーン」を使用
「みたいな」以前が全て速度を表現するための比喩であることは伝わるから省略
これで定型に収めて引っ掛かりなく読み、「きみに会いたい」へ颯爽と着地するようになった
無価値さを高める
ここだけの秘密よ、ぺんぺん草のぺのどっちか一つは片仮名らしい
ここだけの秘密よ、ぺんぺん草のぺのふたつめのぺは片仮名なのよ
「どっちかひとつ」ではなく、「二つ目のぺ」と特定することによって、情報の社会的な無価値さを高めて、「らしい」という噂レベルから「なのよ」という形で断言するように。「ここだけの秘密よ」という導入の本気度を高め、言葉遣いに一貫性を持たせる
焦点を絞る
花びらが咲いていた木から落ちるその軌道は二度と戻れぬ道
花びらが花から落ちる 行きだけの切符を買ったあなたのように
視点を全体から花、枝、花、花びらと絞って観察すると、気と花の関係性よりもう一歩踏み込んだ花と花びらの関係性を把握することができる
一つの対象を様々な位置や距離から観察することで見ている物事の解像度が上がり、表現の質も高まる
「その軌道は二度と戻れぬ道」は「行きだけの切符を買ったあなたのように」と一種の中に現在と過去の二つの場面を登場させて重層的にしている
影を描く
年下の球を年下が打ち返し年下たちが見送っている
年下が投げ年下が打ち返し年下たちが見送っている
「の球を」を「が投げ」に変更することで年下に続く動詞を統一させる
球は消えても何をしているのかは読者に十分伝わる
テンプレ化する
底に塩ばかり残ったふりかけをいつまでゆかりと呼べるだろうか
思い出にばかり残った面影をいつまで恋と呼べるだろうか
推敲というよりも遊び方の提案
xばかり残ったyをいつまでzと呼べるだろうかをテンプレートとして使う
底に砂ばかり残った暗闇をいつまで井戸と呼べるだろうか
おじいさんばかり残ったショッカーをいつまで悪と呼べるだろうか
百年後
ペットボトルの蓋に収まるような些細な愚痴だけど、ねぇ、聞いて
いろはすの蓋に入れてもこぼれない些細な愚痴だけど、ねぇ、聞いて
上の句のぎこちなさが気になる
ペットボトルを固有名詞に、商品名に変えるのもあり
100年後の人に届かないかもしれないけれど、商品名と同世代のライブ感でのイメージをそのまま使える
重なりの解消
カブトムシゼリーの赤い透明をひかりに透かせば夏がきこえる
カブトムシゼリーの赤い透明を陽に重ねれば夏がきこえる
「透」という字が繰り返されているからそれを治す