瑜伽行派
この唯識思想を唱導する学派を唯識派といい、また瑜伽行派(ゆがぎょうは)ともいう。「瑜伽行」とは「ヨーガーチャーラ」というサンスクリット語を翻訳したもので、「ヨーガの実践をする人」を意味する。この術語は「ヨーガ」と「アーチャーラ」という二つの単語にわけることができる。このうち「ヨーガ」はいわゆる瞑想のことで、これを「瑜伽(ゆが)」と音写し、「アーチャーラ」の部分を実践という意味で「行」と訳している。本来は「ヨーガの実践」を意味するはずだが、文献では、しばしば「ヨーガの実践者」という意味で用いられている。その場合、一般的な意味ではなく、唯識思想を説く人々を指していることが多い。つまり、ヨーガーチャーラが唯識思想を説く学派を指す呼称となっている。そのため、唯識派のことを瑜伽行派とも呼んでいる。 唯識派にしろ、瑜伽行派にしろ、日本では聞きなれない学派名だが、奈良の興福寺や薬師寺に伝わる法相宗は、この唯識派の流れを汲んでいる。三蔵法師として知られる玄奘は、七世紀にインドに赴き、そこで唯識の思想を学んで、多くの典籍を唐に持ち帰った。彼が訳出した典籍の中に『成唯識論』というものがあり、その内容を研究した僧たちが法相宗を形成していった。それが南都六宗の一つとして、日本にも伝えられている。