弁証法
英語dialectic,ドイツ語Dialektikなどの訳。欧語はギリシア語のディアレクティケに由来する言葉で,元来〈対話・弁論の技術〉の意。エレアのゼノンにこのような技術の祖を認め,ソクラテス,プラトン,アリストテレスの〈弁証法〉が語られるが,もっぱら対話・問答によって哲学という営為がなされた古代に,ヘーゲル以後の特殊な意味を担う語を用いることは適当でなく,ヘーゲル以前については〈対話術〉〈問答法〉〈弁証論〉などの訳語を用いるのが望ましい。ヘーゲルは理性の陥る矛盾の積極的な意義をとらえて,一般に有限なものはすべて自己に内在する矛盾を動因として対立物を生み出し,それを媒介としてともにより高次の段階へ止揚されると主張し,これを現実世界の一切の運動の原理とした。これによってヘーゲルは思考と存在との統一的論理としての弁証法を初めて自覚的に体系化したが,それを絶対精神の自己展開という観念論的な形で展開した。マルクス,エンゲルスは,ヘーゲルの弁証法を唯物論の方向に〈転倒〉し弁証法的唯物論を唱えた。