ライティングマラソン執筆録(Unferth)
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振り返り
全体としてファンタジーもの。
他の参加者が随筆(特に見たもの、感じたもの)を書く中、異質だった。
「悪魔」や「騎士」、「女神」など一般名詞で語られているが、全員名前持ち。
5クール目の女神は劇中でも触れられている通りククルカン。
しかしなぜマヤ文明の神ククルカンがアステカを支配し、あまつさえ国際会議にでているのかは説明されていない……
7クール目でも騎士の愛称が「ウィー様」なのは明かされるが、他は不明。
由来は『ベオウルフ』のウィーラーフ。后の名前も『ベオウルフ』からきている。
要するに、私は参加したほぼすべてのクールを「持ちキャラ」で乗り切ったことになる。
なので私は「考えた」のではなく「吐き出した(書き出した)」という感覚が近い
物語はすでに私の中にあった。問題はどの場面を書き出すか。
例外は8クール目のゲオルギオスのお話。
これは即興。とはいえ、”常識(持ちネタ)”の範囲で乗り切った。
ゲオルギオス、聖ジョージは竜殺しの英雄として有名だ(前提)。
竜は中世の騎士物語でしばしば「悪の象徴」として描かれた。
他方、古代では竜は蛇と結びつき「多産」「豊穣」「不死」の象徴として崇拝された。
”もしゲオルギオスが古代の竜と出会ったらどうなるか?”
本能寺の変の信長を描くぐらいには陳腐なアイデア。とはいえ、そこには奇妙な工夫がある。
流石に9クール目には”アイデアはともかく”体力の限界は感じた。
とはいえアイデアが尽きないのなら、休憩を挟めばまだまだ書けた可能性。
しかし一日の量にしては書きすぎた……
合計4800字也
5クール目(途中参加)
あいも変わらず、国際会議において彼女は忌々しい存在だ。
「そもそも我が国が優位に立っていることは他国の失敗の連なりです」
忌々しい。
「なぜあなたがたの国で貧しい人を救わないのですか。
”人口の流出” それがどんな問題だと?
出ていかれるような国に問題があるのです。
私は無理やり連れ去っているのではありません。
本人の意思を尊重しているのです」
他の国の代表が発言する。
「アステカ代表の発言に異議がある。彼女は法に反している」
すかさずあの魔女が反撃する。
「法がなんのためにあるのか、考えていただきたいものです。
率直に言います。良心と善行は法の上にあります。
もし法律が良心を禁ずるなら、私は法を破ることに躊躇しません」
アステカ…… 神のいる国だ。しかも、それが代表ときている。
こうしてみると、全能の力というのは厄介なものだ。
ああ! 神なき世ならもっと国際政治はマシになっただろうに!
彼女と、かの国があるおかげで、我が国は人口減少に悩まされている。
神と奇跡に不況も何もない。おかげで、貧困層の人々はみなあの国に渡った。
安い労働力が必要なのだ。それを、彼女は奪った。
今では中間層が卑しい身分の仕事を請け負っている。
すべてあの女が、神が悪いのだ。
アステカを率いるククルカン、あの女神さえいなければ。
世界は人間のものだったのだ。
きっと神のいない世界の住人は、今よりもっと幸福に違いない。
6クール目
「これが罰だ、神罰だ!」
黒衣の悪魔が叫ぶ。
鞭で打ち据えられた男が声をあげる。
「あれは、お前がそそのかしたことじゃないか」
「いいや、すべては君の意思だ。
人間には意思がある。君は、止めようと思えば止まれた!」
強く鞭がしなる。
「罰を与えなければ。自由意志なんて、人間には過ぎたものだったんだよ。
神は人間を見誤った!
君たちに意思なんて必要ない。我々こそが……」
「そう、”我々こそが”神の如くならなければいけない」
乱入者に黒い悪魔は舌打ちする。
「また君か。本当に君にはうんざりする」
「正義が犯され、悪がはびこるのを、僕は、僕の正義は許しはしない」
決然と、粗末な装いをした悪魔が宣言する。
奇妙な空間だ。男と、子供が二人いる。
しかし、今この時は大人より子供のほうが力が強い。
黒い悪魔が口火を切る。
「なぜ悪を罰してはいけないのか。悪を罰する以上、僕は完全に正義じゃないか」
「いいや、そんなことはありえない。君が悪をそそのかした以上、君もまた悪だ」
「ふん。お前も知っているくせに。神は天と地を分けられた。昼と夜も。
正義と悪はまざり合わない。そこには境目がある」
「そういうことは”一切の罪を行わずに”言うべきものだね」
最後の言葉に、黒衣の悪魔が激昂する。
「これが正義でなければなんなのか!」
しなる鞭に、男は悲鳴をあげる。
「悪を罰する! それ以上の正義の証明はない。
善と悪が分かれたのだから。いいかい、僕は今や神にも等しい存在なんだ!」
「思い上がりも甚だしい」
粗末な悪魔が嗤う。
「真に正しいのは神しか、我らが父しか存在しない。
われらはみな等しく邪悪に生まれた」
「ふむ! いかにも悪魔らしい理屈だね。だけれど、”正義の悪魔”である僕には関係ないね!」
「ああ、そうだろうね。だけれど、僕の身に宿る力を見てもそう言うのかな」
粗末の悪魔の手には、かつて記された”回転する炎の剣”があった。
「それは…… 神の力だろう! 悪魔が使うのは……」
「そうとも。律法に反している。だけれど、僕は使える。使えてしまう」
刃はまっすぐ黒衣に向く。
「君を罰せと、神の力はささやく。この世に正義はない。
ただあの方のみが正義だ」
「……大馬鹿ものめ! そんなにこの罪人がほしければくれてやるさ!」
黒衣の悪魔は退場する。
「ああ、助かった…… ありがとう」
男は感謝する。子供に向かって。
「悪いけれど、僕は誰の味方でもない」
「え?」
剣が男を貫く。
「僕は正義じゃない。あいつも。だけれど、僕は君を罰しないといけない。
いいや違う。”悪が悪をさばかないといけない”
この世の秩序は守られなければいけない」
男は力を失ったように倒れる。いや、現に大切なものは失われたのだろう。
悪魔は剣に祈る。
「父よ。どうかこの罪を覚えていてください。
私を罰してください。この世に正義を満たしてください。
ただあなただけが正しい。他のすべては偽物です。
だからどうか、不正を裁いてくださいますよう」
この世のなにより真摯な祈りは、またたきの間に終わった。
7クール目
「しかし、誓って」
騎士が語る。
「無作法な真似は許されない。私には責任がある。
偉大なる先王。かの偉業を汚すことは許されない」
「なぜそこまで頑ななのですか」
少女が返す。
「休んでもいいのです。間違えてもいいではないですか。
あなたは他の誰よりも力を尽くしてらっしゃいます。
ああ、ウィー様! あなたは先王よりもずっとずっと、
努力されていますのに」
「いいや、そんなことはない」
騎士は丁寧に、しかし強く断言する。
「私の業績。それに誇れるものがあるとするなら、
それは私が先王のものを守っていたからに過ぎない。
すべては王が作られた。私はその後継に過ぎない。
伏して祈る身だ」
「またそんな!」
少女の声色は、まるで子供を叱りつけるような色をしている。
いや、実際にそうなのだ。
この”少女の外見をしたもの”こそ、先王の后にして忘れ形見、
形こそ人の形をとるものの、人間ではない存在なのだから。
寿命は、騎士をはるかに凌ぐ。
「ウィー様。どうかあなた自身をいたわってあげてください」
少女が騎士に手を伸ばす。そして、騎士は小さく声をあげる。
「あなたの全身のこの傷が、あなたの努力でないならなんなのですか?
どうかどうか、私を安心させてください。
私はいつも、あなたを想っています。どうか、その身が安全でありますように、と」
「それは無用な、過ぎた心配です」
騎士は努めて丁寧に、言葉を返す。
「あなたに想われることこそ我が身の誉れ。
なれども、王の道はまだ遠い」
騎士の頭にはレガリア、王権を象徴する王冠がある。
彼はそれをするりと外す。
「本来なら、私が持つべきでないもの。
だが、本来の所有者は失われた。
永遠に。私は墓場の管理人に過ぎないのです」
「あんなにもみながあなたを慕ってくださっているのに」
「先王の幻影を見ているのでしょう」
「……もう知りません!」
少女は怒る。
「私が、失礼を?」
「ええ、ええ、大変な失礼を!
いいですか。ウィー様。どうか私の想いを、
みなの想いを受け取ってください。
みなが貴方を愛し、貴方を想っています。
嘘でも幻影でもありません。
貴方を見て想っていますのです。
あなたの行為は、みなの想いを足蹴にしています」
聞くと騎士は即座にひざまずき、少女に許しを乞う。
「私には、あなたの想いがわからない。
けれど、あなたには最大の敬意を払う」
「本当に、不器用な人」
少女はやはり子供を叱りつけるように。
8クール目
「また私を殺しに来たか」
巨体が小さな姿を見下ろす。
「そうだ。私の胸にある十字が見えないのか。
これぞ正義の印。邪悪な竜を討てと、神が叫ぶのだ」
白いマントがたなびく。馬の手綱を強く引き、
騎士は堂々と名乗りをあげる。
「お前が他の愚かな竜を、いや、
”竜のようななにか”を切ったのは知っている。
だが問おう。お前が私を討つのは、真にお前の神の意にそうものだろうか」
「ほう。命乞いか。しかし、やるのならもっと上手にやるものだ」
「これが命乞いなら、お前のしごともさぞかしやりやすいだろう」
竜は嗤う。
「私を信奉する者を、お前は知っているだろう」
「ああ、邪教徒どもめ。しかしそれも、お前が倒れればすぐに消え去る」
「ゲオルギオス」
竜は力を込めて声を呼ぶ。
「哀れなゲオルギオス。私の声を聞くがよい。
私が死ねば、この地に潜む魔物共が黙ってはおるまいよ。
私はこの地の神なのだ」
「それは神聖な名だ!」
騎士の腕に、力がこもる。
「事実だ。この地の人も魔物も、等しく私にかしずく。
いいや、この地の自然も、太陽さえ私の意に沿わぬものはない。
それを討つということが、どういう意味か、貴様にもわからぬものではあるまい」
あまりにも無防備な、しかし理知的な竜の態度の騎士は考える。
竜殺しの、その末路を。
手に持つ剣をもってすれば、邪竜を討つのはたやすいに違いない。
だが、その先は?
竜が語るように、数多の魔物が現れたとしたら、
いいや、むしろ竜によってこの地の平穏が保たれていたとするのなら、
自分がしていることは一体なんなのか?
「神は間違えない」
「人間は間違える」
決意の言葉も、竜にたやすく飲み込まれてしまう。
力が、勢いが足りない。心が折れては戦うことはできない。
「ではお前はこう言うのか。”戦わずして去れ”と」
「お前が平和を望むのなら」
平和! それもまた、騎士が望んでやまぬものだ。
竜殺しが正義だとして、その結末が惨めなものであるのなら、
それは神の意志だと言えるのか?
騎士は祈る。神に、その答えを与えてくれるように。
しかし神は沈黙したままだった。
「さあ、去るが良い。お前の望むものは、ここにはなかったのだ」
憤然と、やるせない思いをいだきながら騎士は竜に背を向ける。
神意を問わなければ。
しかし、神はゲオルギオスに向かって沈黙し続けるだろう。
9クール目
「私はあなたの願いを叶えます」
少年はそうささやく。
彼は悪魔で、悪魔は契約に縛られる。
だから、かき分けるとするならこの悪魔の契約主をこそ、
少年と呼ぶべきだろう……
幼い、だが恐るべき野心を持つ二人として。
人間の方の少年の願いは”純粋”だった。
「悪人がいなくなれば、この世はもっといいものになる」
そんな子供っぽい思いを抱える人の前に、
悪魔が現れたのだ。
「あなたを信じます。あなたの想いを。
あなたを信じます。あなたの理性を。
あなたを信じます。あなたを神の如き人として」
悪魔というにはあまりにまっすぐで、清らかな願い。
少年には悪魔が天使に見えたが、それもまた些細なことだった。
大事なのは、この悪魔とも天使とも呼べる少年が、
人間の少年に手を貸してくれるということだった。
「あなたが望むなら、そのように。
幸い、あなたの願いを叶える力が私にはあります。
あなたは常に正しい。人は神に似せて作られたのです。
我々悪魔は、あなたがたに伏してその祈りを叶えるのです」
邪悪な結末だったと言わなければいけない。
悪魔は、少年の願いを叶えるべく「悪を犯した人間を殺す病」を作ったのだ。
街は騒然となった。善悪の基準は少年が決めた。
だから、誰もが病を恐れた。
明確な犯罪者は言うに及ばず。
口が悪い人、態度が冷たい人、
少年の目に悪に見えたものは等しく惨めな末路が約束されていた。
だから、粗末な衣の悪魔がやってきた。
「またずいぶん、派手にやったものだね」
人間達が寝静まった世界で、悪魔達がささやく。
「それがあの子の望みですから」
「やはり人間に僕らを使いこなす才能はないようだね。
君はまさか、自分の振る舞いが正しいなんて思っていないだろうね」
「私は判断をするべきではありません。
人間は神の似姿です。我らはそれに従わなければ」
「御託はいいんだ。本気でこれが正しいと考えているのかい」
少年の悪魔は答える。
「私には、これが正しいかわかりません。
ですが、それがどうしたというのでしょう。
もし間違っていたとしたとしても、
人ならいずれ、必ずや、間違いに気づくはずです。
それを私が指摘するのは、思い上がった行為です」
「でも、君は僕の言うことは聞くだろうね」
「もちろんです。あなたは私の大切な……兄弟なんですから」
「なら、兄弟として言うよ。今すぐ病を除くんだ」
「あの子の純粋な願いはどこに行くのでしょう?」
「間違いは正されなければいけない。
……君が僕を信じるなら、どうか、僕の願いを聞いて」
「考えるまでもありません」
少年の悪魔が続ける。
「あなたはいつでも私を引き止めてくれた。きっと、今度も」
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