アール・ブリュット
アール・ブリュットとは、「生の芸術」を意味するフランス語である。
一般には主に、「正規の美術教育を受けていない人による芸術」、「既存の美術潮流に影響されない表現」などと説明されることが多い。
フランスの画家であるジャン・デュビュッフェは1940年代後半に、過度に洗練された芸術的世界の中の芸術作品の対極にあるものとして、「アール・ブリュット」(art brut)という概念を提唱した。 それは「美術教育を受けていない人の直接的、無垢、生、未加工の芸術」を指すものだった。
現在の日本においては、その中の一部分でしかない「障害者の表現」としてアール・ブリュットを推進している。
ここでデュビュッフェは「文化的処女性」と「純粋な独創性」を重要視している。精神障害者だから集めた、のではなく文化的処女性と純粋な独創性を重視した結果、精神障害者の創作物が集まったといえる。この「アール・ブリュット」の言葉によって、それまで芸術の枠組みで取り上げられなかった人々による表現が芸術として扱われることとなった。1970年にはイギリス人評論家のロジャー・カーディナルがアール・ブリュットの英訳として「アウトサイダー・アート」を提唱し、その概念がアメリカにも普及する。一方、日本では、障害者の表現は芸術の枠組みではなく福祉・教育の枠組みの中で長らく語られてきた。1993年の「パラレル・ヴィジョン」展をきっかけにようやく芸術としても取り上げられるようになり、それ以降次第に盛り上がりを見せ、2020年東京五輪に向けて障害者アートとしてのアール・ブリュットを国が推進することも発表された。しかしこのことで幅広い意味を持つアール・ブリュットが障害者の表現に限定されてしまうこと、さらに障害者の表現の中でも選別が行われることによりアール・ブリュットが小さな枠組みとして成立しつつあるということも指摘されている。