しいなずのR18作品まとめ
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R18創作演習に投稿した作品を随時まとめていきます。
長いので目次(クリックすると行頭に移動できる)
2020/06/06
彼は私からキスをしようとしても、いつも顔をそむける。よって、目を瞑って接近させた私の唇は彼の唇ではなく、頬に不時着するのだった――ちなみに頬へのキスは親愛、厚意を意味する――。その度に、彼が恥じらっているからそうしていると自分に言い聞かせてもどこか納得のいかない心地になる。そして、そういうときは決まって私から彼に抱きつくのだった。防音ネカフェ、狭い部屋の中で二人座って。テーブルの上のパソコンに見向きもせずに抱きついて甘えあう。彼の首元に顔を埋めて、私はじっと彼に頭を優しく撫でられていた。彼の胸元にもたれかかるように顔を近づければ、ちょうど彼の喉元が私の口に届く――次の瞬間には、優しくついばむように彼の喉にキスをした。
喉――より詳細に言うなら、男性だとちょうど喉仏があるところ――へのキスは、欲求を意味するらしい。すこしズレて、首筋へのキスは執着を意味するそうだ。けれど、そういったひとつひとつの意味なんて、夢中になっている間は意識することすらない。一回二回ではなんの反応もくれないものだから、場所を僅かに変えつつも、構って欲しい子供がねぇねぇと指で小突くくらいの感覚でキスを繰り返した。
まもなく、彼は私を強く抱きしめ、やや苦しそうな――喘ぎ声を押し殺すように息を漏らした。そうやって反応してくれるのが嬉しくて、繰り返し彼をついばむ。興奮でほてり出す全身に、彼は力を込めて抱きしめてるのに、頭からうなじ、そして背をも撫でてくる手は優しく、さみしがりの私をなだめるように。頭を撫でられる安心感と、うなじと背を撫でられる快感に体をふるわせながら――
「私と唇を合わせて欲しい」か、「もっとこのまま気持ちよくして欲しい」か。お互いに抱きつくのをやめるまで、私の【欲求】は続いた。
2020/06/08(本来はルビを使っているため縦書きのpdfファイル)
──ああ、いじらしい奴め。普段からお互い積極的に愛を囁きあっているのに、いざとなったら私を傷つけたくないと君は逃げ腰になる。今も、私を抱きしめたままで、彼は我慢するように浅い息をしている。その時、彼の肩へと回った私の手は、奴の無防備なうなじを撫でてやるのにちょうど良かった。愛し子を撫でるように優しく、焦らすようにゆっくりと。喉奥から堪えるように声を漏らし、鼻息を荒くして、それでもじっと私を抱きしめている君は、とても愛おしい。
彼の体勢が僅かに崩れ、私の胸元に顔を埋める。やや丸まった背筋を、うなじから一本の線を引くように指先が滑る。胸元でくぐもった声が、あっ、と困り果てた悲鳴を上げた。ひとつ、またひとつ。背をおもむろに撫でる度、情けない声が聞こえてくる。それでもやめてのひとつも言わないんだから、身体的にも精神的にも、私を傷つける事がそんなに嫌なのだろう。もう片手で首元に触れば、脈は速く、すっかり火照ってしまっている。そんなに興奮しているのなら、私に食らいついてしまえばいいのに。そう囁きかけても、だめ、としか返さない──本当に、いじらしい奴だ。せめて絶頂を味わわせてやろうと思っていた善なる私は消え去り、その日いちにち、悪しき私が彼を辱(いじ)め倒したのだった。
2020/07/30
【無題】
パンツスーツ。
オーバーサイズのパーカー。
ボクサーパンツ。
スニーカー。
革靴。
いくら見た目から女を排除しても、
下着の中に女がいる限り女の運命からは逃げられない。
ヤーズフレックスでも飲んでなきゃ生理は毎月来るし、
それに合わせた気分の上下もあるし、
酷く寂しい時は中を彼で満たしたくなったりするし。
口付けをして、
私が彼を受け入れて、
そうやって愛し合う裏で。
「私が男だったら、こいつは私を好きになってくれただろうか」
もし男に生まれ変わって、
もし同性同士で出会っても、
それでも両思いでいたいのに。
2020/08/01
【寂しくないと思っていた】
寂しくないと思っていた。
親がわがままを聞いてくれると思っていた。
欲しいものはだいたい買ってくれた。
お出かけにだって家族一緒によく行った。
寂しくないと、思っていた。
寂しくないと思っていた。
学校で男の子にいじめられた。
ブス、バイ菌、キチガイ呼ばわりをされた。
その代わり、女の子や先生たちが一緒にいてくれた。
卒業するまで、何も進展はなかった。
よく話した。よく遊んだ。
寂しくないと、思っていた。
寂しくないと思っていた。
人生を変えてくれるような本に出会った。
色んな物語に感動した。
友達は少なくても平気だった。
教室の隅で食べる一人飯が気楽だった。
寂しくないと、思っていた。
寂しくないと思っていた。
恋人ができた。
片手で数えるくらいしか逢えなかった。
その分たくさんメッセージを交わした。
悩みだって打ち明けた。
寂しくないと、思っていた。
寂しくないと思っていた。
彼氏とようやくここまで辿り着いた。
写真でしか見たことの無い肌を見せあった。
彼と何度もキスをした。
意識が消えてしまいそうなくらいに求めあった。
夢心地になって、やっと気づいた。
本当は、寂しかった。
親からの愛情が足りなかった。
いくら欲しいものを貰えても構いはしてもらえなかった。
精神的に満たされなかった。
友情を信じきれなかった。
心配ばかりされていた。
心配されるのが嫌になって平気な振りをするのが癖になった。
solitudeとlonelinessを間違えた。
ますます現実を信用しなくなった。
架空も架空でしかなかった。
心が助かることはなかった。
平気な振りをしていると気づけなくなった。
愛する方法を間違えていた。
利用されかねない状態だった。
幸いにも彼はそうしなかった。
自分を大事にして欲しいの意味がわからなかった。
彼のように心から好きじゃないとしないと誓っていた。
騙されていたら危なかった。
私は泣いた。
寂しかったと。
彼はしっかりと抱きしめてくれた。
彼と一緒なら、本当に。
寂しくないと、思えそうだ。
2020/11/15
【墓に埋めるように、記憶を埋めよう】
もうすっかり別れて音沙汰のないセフレと
関係が最高潮だった頃のようなセックスを
シてきた。 夢の中でシてきてしまった。
別に、今わたしが本気で付き合っている彼
がヘタクソだったり、満足できなかったり
するわけじゃあない。決してそうじゃない
だけど、あんなセックスは――
下品で、みっともなくて、汚くて、けれど
お互いに極限まで奔放だったあの瞬間は、
あの人としか経験したことがなかったんだ
両者思いやらなくても思いやられなくても
心の底から、シたいようにスればよかった
あんなセックスはあの人とだけだったんだ
こんなこと言ってるけど、本当に今の彼氏
のことは好きだって確信してる。
あの人とは絶対に関係が長続きしないって
夢から醒めたように分かったから別れた。
けれど、コンドーム越しに伝わる熱の様に
心の奥底まで挿入りこんで刻まれた記憶を
どうやって、忘れたらいいんだろう?
分からないから、私は
この記憶を自分の中に孕【ひ】めたまま、
いつか堕胎【わす】れるのを待っている。
この記憶と別れるアフターピルなんて、
まだ見つかってない。絶対見つからない。