近代西欧におけるピクチャレスク美学についてのあれこれ
17世紀中頃から貴族階級の間でグランド・ツアーっていう大陸旅行が流行したのですな。イングランドからフランスからイタリアへ渡ってローマのルネサンス美術や遺跡を見たりして。で、この旅行でポイントなのがアルプス越えで、彼らは旅行の途中でアルプスの山々の断崖、山岳、奔流、動物や轟音を体験し、それに対する畏怖ならびに美への感動を呼び起こされたんですな。 「私のいう美しい風景という意味は、もうおわかりだと思う。いくら美しいといっても、平坦な地方は、私には美しくは見えない。私に必要なのは、奔流、岩石、樅の木、暗い森、山々、登りくだりの険しい道、恐るべき断崖である」
ここらへんの自然体験からヨーロッパにおける新しい美の観念、未知の要素が発展して芸術に入り込んでくる。これがピクチャレスクてやつらしいですが。 ピクチャレスクてのは「絵のように」「絵のように美しい」と訳されるようですが、興味深いのは素朴な自然美の発見から、「絵のように美しい風景を愛でる」みたいに変容してるんですな。つまり、絵の感覚が先んじてあり、自然を既に絵(ピクチャー)にフォーカスしてるんです。
18世紀中頃になるとイギリスではさらにピクチャレスク・ツアーとかピクチャレスク・トラベルだとかがブームになるんですが、この頃になるともう「絵のように」美しい風景を見出すツアーに変容していて、イギリス人はクロード・グラスという鏡を持参して旅行中の風景を鏡の中に写し込み、写真のように枠内に収めるようになるんです。クロード・グラスはクロード・ロランという風景画家にちなんで名づけられてるんですが、風景をクロード・グラスに収めながら「クロード・ロランの絵のようだ」と賛美するようになったわけですな。 関連