読書感想「白い衝動」
https://m.media-amazon.com/images/I/41X3Hg3IZhL.jpg
自分が今まで読んできた作家の小説をちょっと趣が違う感じがして,もう1冊読んで,継続して読むかどうか考えようと思った。
結果,継続して読む作家さんに決定である(笑)。
「道徳の時間」も「道徳」というか(小説では「道徳」という言葉を使っているが)「倫理」とか「ルール」そして「善悪」あたりを取り扱っていて,自分自身,その物語の設定に引き込まれた。
この物語では,もっともっと踏み込んでいて,「悪(あく)」について考えている。
「絶対悪」,「生まれながらにしての悪」,「本性が悪」という人間はいるのか?
という問いである。
Amazonのあらすじではこんな感じ
小中高一貫校でスクールカウンセラーとして働く奥貫千早のもとに現れた高校1年の生徒・野津秋成は、ごく普通の悩みを打ち明けるように、こう語りだす。「ぼくは人を殺してみたい。できるなら、殺すべき人間を殺したい」千早の住む町に、連続一家監禁事件を起こした入壱要が暮らしていることがわかる。入壱は、複数の女子高生を強姦のうえ執拗に暴行。それでも死に至らなかったことで、懲役15年の刑となり刑期を終えていた。「悪はある。悪としか呼びようのないものが」殺人衝動を抱える少年、犯罪加害者、職場の仲間、地域住民、家族……そして、夫婦。はたして人間は、どこまで「他人」を受け入れられるのか。社会が抱える悪を問う、祈りに溢れた渾身の書き下ろし長編。
自分に引き寄せて書くが,学校が舞台,そして主人公がスクールカウンセラーで,子どもたちとの「会話」「対話」「議論」「カウンセリング」が具体的に随所に盛り込まれている。この部分が,わたしにとっては興味深く,どんどん惹き込まれた。
Amazonのレビューでは,逆にこの部分が「難しすぎる」とか「理屈っぽい」とか「専門用語を用いていてわかりにくくしている」のような書き込みも見られる。
が,繰り返すが,わたしにとってはここが魅力的だった。
「傾聴」という言葉が何度も出てくるが,相手や自分がいかにして「自分の理屈」を「自分が見ている風景(見たい風景)」を語っていくか,なるほどなぁと思いながら読んだ。
前後を説明していないので,わからないと思うが,次のようなセリフがたくさんあって小説の先のストーリーを考えさせるとともに,私自身の日常生活での立ち位置をも問われている感じがする。
「我々にできるのは三つだけだ。排除,隔離,そして包摂。しかしこの包摂というのはよくよく誤解されている。まるで社会がアウトサイダーを暖かく迎え入れ,受け入れることで,彼らの個性が社会に適合するという幻想を,我々は抱きがちなのだ……」
インクルーシブという言葉をわたしは,いろいろな場面で用いているが,こういう極端な場面に落とし込んだ時,どのように考えていいのか,考えているのか,わからない。
個人と社会,世間,世の中,ここの間にマスコミだったり,噂だっだり,自分の体面や都合だったり,いろいろと入ってくると思う。
いろいろと考えさせられるお話。
たぶん,この作家の本をまたこれからも読み続けるように思う。