読書感想「道徳の時間」
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タイトル,そして,わたしが「読書感想」として書くので,「道徳」に関する授業書,教育書かなと思う人,すみません。
全く関係ありません。
これは,まぁ社会派ミステリとなるのでしょうか。
先日NHKの見逃し配信にて,「「芥川賞・直木賞の舞台裏」 - 決戦!タイムリミット - NHK」を見ました。作家ご本人はもとより,出版界周辺の方々の動き,右往左往,タイトル通り,「舞台裏」がわかって興味深かったです。日本の社会全体がそうではありますが,出版界の斜陽の様子とそれに抗おうとする人たち,すがりつこうとしている人たち(うーん,なんだか,言い過ぎですかね。私自身,教育界にすがりついていますので「すがりつく」という意味では同じではあります)の様子が興味深かったです。後半の印刷会社の方のガクッと肩が落ちてしまい,表情が消える様子,とってもリアルでした……。 ととと,いつものように大きな寄り道。
この中で,本書の作家である「呉勝浩」さんを知ります。ちょうど本の街として盛り上がろうとしている八戸の出身ということ。同じ東北人として興味を持ちました。とはいいつつも,基本,文庫本にしか手を出さないわたし(みみっちくてすみません)。しかも,最近は「モノ」としての本をなるべく手元に置きたくないのです(あとで処理するときに面倒,書籍で部屋の体積が奪われたくない。それでも,本を読みたい)。ですから,まずはKindleで出版されているかどうかを探し,それを購入します。(あっ,これ,先のNHKに結びつければ,出版界の方々に対しては失礼な振る舞いをしているか……。ごめんなさい) で,呉勝浩さんの文庫本になっていてかつKindle本を読んでみようと物色したところ,本書から始めようと思いました。この本は,江戸川乱歩賞になっています。 ちょっと,また本書から話題が離れますが,先のNHKの番組で初めて知ったことなのですが(出版界に詳しい方なら常識なのでしょうけど),書籍の賞の価値のわからない者にとって,芥川賞も直木賞も江戸川乱歩賞も「すごい賞」という受け止め方で終わってしまいますが(出版界の方,本当にすみません),「芥川賞」「直木賞」と「江戸川乱歩賞」には大きな差があるということですね。 江戸川乱歩賞は,すでにプロの世界で活躍している方もアマチュアの方でも応募できるわけで,もともとプロで活躍していて,もっと「売れたい」「上を目指したい」と思っている方にとって,「江戸川乱歩賞に応募してみたら」と言われることは屈辱だったということを,NHKの番組中で今回直木賞を「テスカトリポカ」で受賞した佐藤究さんがおっしゃっていました。佐藤究さんにとってみれば,結果論としては江戸川乱歩賞に応募し,受賞して,人生が大きく好転し,そして今回,直木賞を受賞するわけですから,佐藤究さんに「江戸川乱歩賞」応募を勧めた方,そして,それに腐らず,覚悟して応募して実際に受賞した佐藤究さんの人生もものすごいなと思います。
私自身の読書遍歴からすると,勝手なイメージとして,「直木賞」受賞の本は難しそう,江戸川乱歩賞の本は読みやすそう……って勝手に判断してました。たぶん,直木賞受賞の本や作家さんよりも,江戸川乱歩賞の本や作家さんの方を過去にたくさん読んでいるだろうな……。
ととと……。
本当に,なかなか本題にいかない自分ですね(すみません)。
で,本書。Amazonで紹介されているあらすじを引用すると以下。
ビデオジャーナリストの伏見が住む鳴川市で、連続イタズラ事件が発生。現場には『生物の時間を始めます』『体育の時間を始めます』といったメッセージが置かれていた。そして、地元の名家出身の陶芸家が死亡する。そこにも、『道徳の時間を始めます。殺したのはだれ?』という落書きが。イタズラ事件と陶芸家の殺人が同一犯という疑いが深まる。同じ頃、休業していた伏見のもとに仕事の依頼がある。かつて鳴川市で起きた殺人事件のドキュメンタリー映画のカメラを任せたいという。十三年前、小学校の講堂で行われた教育界の重鎮・正木の講演の最中、教え子だった青年が客席から立ち上がり、小学生を含む300人の前で正木を刺殺。同期も背景も完全に黙秘したまま裁判で無期懲役となった。青年は判決に至る過程で一言、『これは道徳の問題なのです』とだけ語っていた。証言者の撮影を続けるうちに、過去と現在の事件との奇妙なリンクに絡め取られていくが、「ジャーナリズム」と「モラル」の狭間で、伏見はそれぞれの事件の真相に迫っていく。
レビューにいくつか書いてありますが,この本を読み進められるかどうかがもしかしたら一番の関門です。
第一に著者の独特な書きぶりを受け入れられるかです。うまくイメージできるように説明できませんし,まだ1冊しかこの本の著者の作品を読んでいませんが,独特の癖があるように思います。堅い?泥臭い?ハードボイルド?斜め下から書いている感じ?うまくつたえられなくてすみません。
第二に登場人物たちの生活背景をどれだけ受け入れることができるかということですかね。日本,そして関西の地方が物語の舞台ですが,コアとなる人物たちが各自独特の生活価値観を持たされているので,それを「なるほどね」と受け入れたり,こだわらずに流して読み進めたりできるかがポイントになるでしょう。わたしは,ところどころ,ウッと思いながらも,まぁ物語の設定としては……ね,と読みすすめることができました。
その上で,感想を書くと,なかなか興味深かったです。
書名「道徳」にかかわるのでしょうが,「みんな」と「みんなくん」の捉え方,それにかかわって,恥の文化と罪の文化,「神」に関する考え方,ほほほうっと思いました。 とくに,教育関係者のはしくれとしては,この「みんなくん」という言葉と考え方,授業その他で思わず使ってしまいたくなる感じですね。これら,考え方や論の説明として使うのはいいでしょうけd,この言葉を使って,情宣したり誘導したりすると,洗脳へ進んでいく可能性はあるかなぁとは思いました。
また,ネタバレになるので,詳しくは書きませんが,最後の最後で明らかになる「動機」です。ここが,レビューによるとこの本を受け入れるかうけいれないかの最大の分かれ目になるみたいですが,わたしはすんなりと受け入れましたし,様々な人がいる中で(実際にあったら嫌ですし,たまらないですし,嫌悪感を示すでしょうが)こういうこともあり得るだろうと思いました。自分の人生「負」だけを背負ってきた人間が世の中で生き続けるためには「負」を最大限活用するという考え,方法はありなのだろうと思うし,それはある意味ポジティブなのだろうと思います。しかし,しかしですよ。ネタバレさせずに書いているのでうまく伝わるかわかりませんが,だからといって,わたしは「わかる」と書いているだけで「認めている」わけじゃありません。人を殺めることはあってはならないし,そういうのは本の中の世界だけで十分です。また,人を殺めるような環境にならないように,少しでも役立てるような生活をしたいと思います。
最後に,過去と現在の2つのストーリーが混在し,実は現在のストーリーの方は描かなくても良かったんじゃないかとレビューに書いている人もいますが,わたしは読んでいてゴチャゴチャしてわかりにくくなっている感じはありますが,主人公の人生と重ね合わせること,家族と共に生きること,(こじつけかもしれませんが)書名にある「道徳」ということを絡ませる,考えさせるためにも,あってよかったと思います。