蒸気機関
水蒸気が持つ熱エネルギーを機械的な仕事(運動)に変換するエンジン(原動機)の一種。 水を沸騰させて発生させた高圧の蒸気を利用してピストンを動かして、その往復運動を回転運動に変え、様々な機械の動力源とすることができる。
18世紀を通じて様々な改良が重ねられたが、特にワットが1776年頃に開発した、コンデンサーによって熱効率を劇的に高めた新しい蒸気機関が、その後の産業革命を本格的に駆動させる決定的な力となる。 それまでの動力源(人力、畜力、水力、風力)とは比較にならない、強力かつ安定した動力を、場所を選ばずに利用できるようになったことで、工場の機械化、蒸気機関車や蒸気船による輸送網の整備が爆発的に進みました。
この技術革新は、単に生産力を増大させただけではありません。
社会の構造と「人間」のあり方を不可逆的に変容させました。
自然からの分離と時間の支配
それまでの人間の労働は、昼と夜、季節の移り変わりといった、自然のサイクルに支配されていました。 蒸気機関は、天候や昼夜を問わず、化石燃料さえあれば動き続ける、自然から独立した動力源です。
これにより、時間は細かく分割され、効率的に管理されるべき「資源」へと変わりました。
工場は24時間稼働し、人間は機械のリズムに合わせて働くことを強いられるように。
労働者の誕生と疎外
彼によれば、蒸気機関を動力とする工場制機械工業は、新たな階級であるプロレタリアート(労働者階級)を生み出しました。
かつての手工業者(職人)は、自らの道具を持ち、制作の全工程をコントロールしていました。
しかし、工場労働者は、生産手段(巨大な蒸気機械)から切り離され、自らの「労働力」を商品として資本家に売るしかなくなりました。 労働者は、自分が作っている製品の全体像から疎外 alienation され、機械の部品として、単純で反復的な作業に従事させられる。マルクスは、この状態を「疎外された労働」と呼びました。 都市への集中と新たな共同体
工場は、労働者を求めて人々を農村から引き剥がし、巨大な都市を形成しました。
これにより、地縁や血縁に基づいた伝統的な共同体は解体され、同じ工場で働く「労働者」という、新たなアイデンティティに基づく共同体(あるいは階級意識)が生まれる土壌が作られました。
蒸気機関は、人間に自然を克服する巨大な力を与えた一方で、人間を機械のリズムに従属させ、「労働力」という抽象的な存在へと変えました。
私たちが今日直面している労働の問題や、都市生活のあり方の多くは、この蒸気機関が描き出した「人間」の輪郭の延長線上にある、という側面は現代においても無視できないでしょう。