盤上の環境管理型権力
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ボードゲームのプレイは、ルールブックという「法」に従って進みます。
けれど、我々の行動を規定していることは、明文化されたルールだけでしょうか?
レッシグは、人の行動を規定する要素として、「法」の他に「規範」「市場」「アーキテクチャ」と計4種を挙げました。
規制と創造性は裏表
「規制」と聞くと、自由を奪うネガティブなものに聞こえるかもしれませんが、しかしあらゆる創造的な営みは、何らかの制約の中でこそ生まれます。
例えば俳句は五・七・五という規制ゆえに、表現の可能性が無限に広がる。
人の言動をボードゲームがどのように規制するか(=創造的にするか)
レッシグに従うと:
法 Law
ゲームのルールブックそのもの。プレイヤーが従わなければならないとされる、明示的な規則。
規範 Norms
「長考しすぎない」「負けても不機嫌にならない」といった、プレイヤー間の暗黙の社会的ルールやマナー。
市場 Market
勝利点やゲーム内資源など、プレイヤーの行動を利益(インセンティブ)によって誘導する仕組み。
アーキテクチャ Architecture
ゲームの物理的・システム的な環境そのものが持つ、行動への制約。
物理的アーキテクチャ:
コンポーネントの形状、材質、色など。例えば触っていて心地よい駒や相対的に小さいサイズのフォントで書かれた文字。
ボードの区画やマスの大きさや繋がり方。物理的に移動できるルートを制限する。
豪華なアートワークや箱のデザインは、「これは豊かで文化的なゲームだ」という雰囲気を醸成する。
システム的アーキテクチャ:
メカニクスそのもの。例えばオークションとかデッキビルディングとか。
レッシグ風にいうならば「コードによる規制」。
ゲームデザイナーはアーキテクト(建築家)
ルールと同時に、アーキテクチャも設計することで、プレイヤーの選択を、物理的・システム的に規定し、特定の経験へと導く、環境管理型権力を行使している。
それを多くのプレイヤーは好意的に受けとめることになる。
(もし好意的でないならば、そもそもそのゲームを遊ばないだろう)
「デザイナーの設計通りに遊ぶ」という規範を、プレイヤー同士のインタラクションを通じてその場に作り、規律訓練型権力を互いに行使し合う構造をつくる。
フーコーによれば、近代の権力とは、王が上から罰を与えるようなものではなく、むしろ人々が自発的に規範に従い、互いを監視し合うことで、隅々まで浸透するもの(『監獄の誕生』)。
これが権力の横暴だとかいうふうに、悪い状況とここでは言いたいわけではない。
たとえばBGA上でならば、逸脱は、それこそレッシングのいうコード文字通りの意味で我々の言動は規制される。
しかしアナログなボードゲームは、規制を受け、守り合いながらもそのグループ独自の規範やハウスルールを暗黙に創造する。
何も難しい話でなくて、例えば
「ごめん、今の一手戻させて」とか。
ザ・クルーで、ちょっとだけヒントを他プレイヤーに伝えちゃったりとか。
ボードゲームを始めとする遊びという行為は、以上のように、「規制を守こと」と「逸脱の自由」の絶え間ない緊張関係の中に置かれる。
一つメタに考えると、この緊張関係自体が、カイヨワのいうイリンクスとも言えるかもしれませんね。
#📙_ボ哲コラム