蛆刺し
蛆刺し〈エッセンス〉
蚊蛆〈ブンソ〉の群れによって構成された身体とそこからくり出される特殊能力。灰火の正体。
皇白花と皇黒華の心臓はいずれも代替命であると目されていた。代替命であるということがどういうことなのか詳細は不明だが、代替命を移植することによって能力者の命を移植相手に与えることができそうな雰囲気はなんとなくある。すめうじ最終盤、白花と黒華は互いの心臓の交換移植を行う。交換移植によって2人は互いに自身の命を与えることになり、さらに群体者であるという2人の性質が重なって、2人の身体と命はかつてないほど混じり合うことになる。この身体と命の混交を、さらに紫の持つ蛞蝓這わせの主客転倒能力によってブーストすることで、2人は完全に混じり合って1人の新たな人間となった。その人間こそが灰火であり、灰火のブラウとしての種別が蛆刺しである。 蛆刺しの性質は、灰火の前身である白花・黒華2人のブラウとしての性質を融合・発展させたものと特徴づけられる。身体を構成する蟲は蛆虫と蚊の性質を併せ持った蚊蛆であるし、固有能力は「自我を拡散する能力」と「疾病に感染させる能力」を昇華した「自我を感染させる能力」である。 「自我を感染させる能力」とは、蚊蛆の針で刺した相手を灰火と同一存在にし、灰火も相手と同一存在になるという能力である。ここでいう“同一存在にする”とは、『灰火とよく似た性質を持った灰火もどきにする』という意味ではなく『相手を世界にひとりの灰火そのものにする』という意味だ。そのため、灰火の自我に感染した状態の人間は、灰火の身体に攻撃を行えば自分自身もダメージを受け、灰火を構成する蚊蛆から知覚情報を受け取り、また、灰火の記憶を自身の記憶として思い出すことができる。
どういうわけか、ある人間が蛆刺しによる自我の感染を受けたとき、この感染は異世界ごとに異なるローカルな事情ではなく、その人間がどの異世界にあっても共通に持っている本質的な個性として扱われる。能力が持つこの特異性により、蛆刺しは貫存在のユニークスキルたりうる。ユニークスキルとしての真の名前は本質寄生〈エッセンスパラサイト〉。本質開示定型文は第55話。
能力の特異性をもう少し嚙み砕いて言うと、次のようなことだ。例えば、世界には“リンゴ”という一般名称に対応する個々の物体が複数存在する。そうした個々のバリエーションのなかには、赤いものもあれば青い(=緑色である)ものもある。“リンゴ”がこのように異同を許すのは、“リンゴ”という語の定義に『それは赤い果物である』という性質記述が(ふつうは)含まれていないため、十分にあり得ることだ。しかし、“青リンゴ”という一般名称に対応した個々のバリエーションのすべては、青いもので占められており、赤いものは含んでいない。“青リンゴ”がその色に関して異同を許さないのは、“青リンゴ”という語の定義のなかに『それは青い果物である』という性質記述が(ふつうは)含まれているからだ。
蛆刺しによる自我の感染は、“リンゴ”の色のような異同を許す範囲の性質ではなく、“青リンゴ”の色のような異同を許さない範囲の性質についておこる。例えば、複数の可能世界にいるであろう“ツグミ”を例にとって説明するなら、もし仮に灰火がある世界にいるツグミの自我に完全に感染した場合、複数の可能世界にいるツグミのすべてのバリエーションが同時に自我の感染を受けることになるだろう。ただ、それが実際にはどういう状態を意味するのか、ゲーマゲ本編中では描かれていないためよくわからないが……。 代わりにゲーマゲ本編中で描かれたのは、複数の可能世界のなかに1人しかいない(と思われる)空水彼方に対する自我の感染である。彼方は強烈な自我を持った存在であり、異世界転移にあっても自我の本質(具体的には性格・記憶など)を完全に維持することができる。逆に言えば、彼方自身が自我にとって本質的ではないと考えているものは異世界転移にあたって新世界に持ち越さないこともできるかもしれないわけで、実際、彼方は異世界転移にあたって四肢欠損を含む肉体的ダメージを持ち越していなかった。そこにきて、蛆刺しによって灰火の自我が感染した状態というのは、彼方自身が自我にとって本質的であるとは考えたくなさそうなものであるにもかかわらず、蛆刺しの特異性によって強制的に彼方の本質となっていたため、異世界転移にあたっても持ち越さざるを得なかった(もっとも、蛆刺しのような特異性がなくとも、彼方の記憶に強烈なくさびを打ち込むことさえできれば、彼方自身が望まぬ状態を異世界に持ち越させることは可能である)。 ●形態
一見ロットと変わりないように見えるが、衣服を含めた全身が常に蛆虫と蚊蛆の群れで構成されている。
蚊蛆とは、蛆虫の胴体に蚊の翅と針を具えたキメラのこと。異なる種の幼虫の特徴と成虫の特徴を併せ持っており、不気味。
また、彼方に伴って異世界を渡り歩くうちに“妖精形態”とでもいうべき新形態を獲得し、任意に変形することができるようになっている(第75話)。妖精形態では、手のひらサイズの人間の身体が背中から蚊の翅を生やす。飛行可能。 ●能力
・蛆虫と蚊蛆による身体の構成
身体全体が蛆虫と蚊蛆の群れで構成されている。
このことにより、身体の損壊を伴う攻撃はほぼ無効となる。白花や黒華のころと違い、完全な不意打ちにあってもノータイムで肉体を分解することが可能。全身の再結集には数分ほど時間がかかる。
・蛆虫と蚊蛆の身体部位としての再解釈
灰火は自身で出現させた蛆虫と蚊蛆の一匹々々から人間の身体並みの知覚情報を得ている。この性質により、灰火が一度に取得している知覚情報の量は膨大なものになっており、常人の精神構造でこの知覚情報をあまさず受け取った場合、情報過多による失神は避けられない。
また、離れた場所に位置する蛆虫と蚊蛆の群れを自身の身体の本体として再解釈することで実質的な瞬間移動を行える。 ・周囲に蛆虫を湧かせる
蛆憑きから受け継いだ能力。灰火が食べようとしている食物から蛆虫が湧いてくることは避けられない。
また、蛆憑きのころと同様、灰火が出現させた蛆虫は多少は灰火の意図を汲んで動くが、一匹単位で行動を制御することはできない。
・自我の感染
蛆憑きと蚊柱の能力の融合。蚊蛆の針で刺した相手を灰火と同一存在とし、灰火も相手と同一存在となる。
同一存在となっている人間は、灰火と身体・身体ダメージ・知覚情報・記憶などを共有する。共有する度合いについてはある程度自由が利くようで、彼方は身体の一部だけを灰火と共有していた。知覚情報についても、彼方は常時灰火と同じ情報量を受け取っていたわけではない。
また、同一存在となっている相手は自我も部分的に同一であるため、黒華が白花に行った一方的なテレパシーのようなことも可能。 ただし自我を不可逆的に感染させるには感染者の同意が必要である。同意なき感染の場合、ちょうど3秒感染を保つのが限界。この同意にあたって形式的な手続きがどの程度必要なのかは定かでない(本気か冗談か、灰火は彼方への感染にあたって契約書を交わしていたということを示唆している)。