先行研究①キンチュ
文章全体の意味内容について一貫した整合性ある表象を形成する過程を示すモデルとして、キンチュの言語理解モデル(Van Dijk & Kintsch,1983;Kintsch,1992)が現在広く認められている。これは読解過程では「表象構造→テキストベース→状況モデル」と表象が形成されていくことを示したモデルであり、各過程の詳しい内容は下のようになる。
表層構造:文レベルの読みの段階であり、入力された語句を統語的関係から符号化し、正確に保持する段階。
テキストベース:文章に明示的に示された命題の意味的・修辞的 な構造を表象する段階であり、文を構成する命題の関係から意味を捉える段階。命題の結束性 を得るために、推論で命題を補うことも含まれる。
状況モデル:文章で直接明示的に述べられていることを、読み手の知識をもとに精緻化し統合化する段階。状況モデルは作動記憶内に形成され、読み進める過程で状況モデル自体も書き換えられていく
この3過程はQNKSに対応する。(表1)
QNKSが定義する読解過程 キンチュの言語理解モデルが定義する読解過程
[Q]問いを立てる→(状況モデルの更新)
[N](情報を)抜き出す→表層構造
[K](集まった情報群を)組み立てる→テキストベース
[Q](文章や図表に)整理する →状況モデル
Qとの対応については、「状況モデルは読み進める過程で書き換えられていく」との性質から、QNKSのQにおける、「“この文章には何が書かれているのだろう”というQから始まった読解過程が、“この時の登場人物はどんな気持ちなのだろう”とか“この具体例は何を示しているのか”など、細かく更新されていく」という性質との共通性を見出した。
以上のようにキンチュの定める言語理解モデルとQNKSが表現する読解過程には共通性が見いだせる。が、より厳密に言えば、キンチュの言語理解モデルは、読解過程が進むにつれて表象される認知過程の“結果物”として「表象構造」、「テキストベース」「状況モデル」を定義している。対してQNKSはその表象を作る過程を言語として定義している。つまり、情報を抜き出すことによって、表象構造が、それらを組み立てることで「テキストベース」が、そしてそれをせり視しようとする中で「状況モデル」が、表象される、といった関係性となる。そうすると、果たしてキンチュの言う3過程は、QNKSをすることで表象されるのか、という問いが生まれる。ここを補うために次に #先行研究2メイヤー を引用する。 NEXT