模倣と創造
問題は
模倣とはなにか、創造とはなにか
言うまでもなくこれは、人類史上、永遠のテーマ
そう簡単に決着がつく問題ではない
とはいえ、これを避けて通ることもできない
まずは、基本的な話から
模倣とは、「他者が創造した情報や、他者の中に生じた認知をもとに、より低コストに目的を達成するプロセス」である
自然界における例
毒を持ち危険なスズメバチと同じ見た目に進化した無毒なアブ
河原と似たような模様に進化して天敵から見つかりにくくなったバッタ
目に似た模様を持つことで天敵をびっくりさせ、斥ける蛾
人間界における例(社会的に許容される順に)
過去の傑作、名作や先輩職人を観察、体得し、それを越える創造物を生み出す
アカデミズムの形成(経験の形式知化)と教育
バイオミメティクスによる技術開発
ジェネリック医薬品
ファッションリーダーやオピニオンリーダーから多くの人が影響を受ける
マニュアルやロープレによる従業員教育
優れた脚本をもとに俳優を演出し、劇を上演する
媒体に歌や演奏を収録して、再生装置により再現する
アニメーションによって無生物を生きているかのように見せる
経験獲得、成長の物語をゲームによって体感させる
競合他社の製品や消費者の研究
プラセボを用いた治療
商業作品の二次創作、コミケ的なもの
トッププロ棋士のソフトを用いた研究
生成系AIを用いた創作及び公開、収益化
ステルスマーケティング
産業スパイ
フェイクニュース、デマ
誇大広告、景表法違反
アマチュア将棋、チェスプレイヤーのソフト指し
授業の代返、レポートの代筆、テストのカンニング
経歴詐称
作品のパクリや実験結果の捏造
フィッシングサイトや特殊詐欺
模倣をあらわす言葉にも色々ある(こちらも、許容されやすい順に)
引用 リファレンス
再利用 アレンジ マイナーチェンジ なぞる
模擬演習 稽古 練習 シミュレーション
本歌取り オマージュ パロディ リスペクト
真似 ミミクリー 似せる
類比 アナロジー あてはめ
模造 模写 イミテーション
擬態 カムフラージュ もどく
迷彩 まぎれる
擬装 フェイク なりすます
盗用 盗作 パクり
剽窃 コピペ
偽装 偽造 偽る 嘘をつく
模倣の効果
天敵から見つかるリスクの低減
競合と競争するコストの節約
獲物を獲得するエネルギーの節約
休息、消化の効率化
自然界と人間界の違い
自然界では、模倣により損害が生じても、訴える先がない
人間界では、「これは駄目」というルールや倫理観が存在する
模倣により、財産権が侵害されるから、だと考えられる
財産権とは
己の身体、時間、知恵と勇気を尽くして生み出した成果物は、活かすも殺すも自由
己に所有権がある、ということである
物理的な成果物を盗むのと違い、情報的な成果物を盗み、再生産するのは、容易
おそらく、模倣に対する禁忌は、人類社会の進化の産物として発達したのではないか
たとえば、インセスト・タブーと同じように
構成員が模倣ばかりやるようだと、全体としての生産性を維持できない
一方で、過去の知見が知識化されたものを継承しなければ、これまた社会の生産性を維持できない
模倣こそ、ルーチンワークの本質である
「マニュアル人間」は軽蔑もされるが、重宝もされる
以上により「模倣は駄目だが、学習はOK」という、なかなかギリギリな倫理観がこの社会を動かしている
たとえばこれが先鋭的に問題化してしまう一例が「原産地呼称問題」である
ブルゴーニュで作ってないのに、ブルゴーニュワインを謳う、偽装する → 明らかにNG
では、ブルゴーニュで作ればどこ産のブドウでもいいのか?
ブルゴーニュで作ればどんな製法でもいいのか?
プロジェクト活動における模倣の問題
つまり、本来ならば生産性をもたらすはずの模倣が、自家中毒を起こす
一方で、共通の世界観のもとで認識をあわせる模倣的な進行は、効率をもたらすのも明らかである
そう考えると
プロジェクト構想やプロジェクト進行の最大の問題は、いかに模倣と創造をバランスさせるか、ということになる
つまり、模倣的にプロジェクト設計を行うことは、倫理の問題ではなく、実効性の問題なのである
結論
創造とはなにか
前例がなく、かつ、機能するもの
模倣元とは異なる文脈のなかで、新たな効果を発揮するもの
新たな使用価値を生み出すもの
創造はいかにしてなされるか
模倣を基本としつつも、模倣を超えるもの
模倣の次元が高く、一見してそれとはわからない
社会通念上、許容される模倣
常識、ルールとして定着することで全体の生産性を高める
許されない模倣
他者の財産権を侵害する