獲得目標
定義
獲得目標とは:プロジェクトの成果物
そのプロジェクトに関係する利害関係者が共通認識として持つ、成果物としてのゴール
https://gyazo.com/c363cbe687571032f31d9ef1da250a83
※画像引用:「紙1枚に書くだけでうまくいく プロジェクト進行の技術が身につく本」(翔泳社,2020)
獲得目標とは何か
獲得目標とは、人間が意識して「これを生み出そう」「これを得よう」と考え、企てる対象を指す言葉です。
形あるモノである場合もありますが、そうでない場合もあります。形あるモノの場合ですと、ある新製品を開発したいとか、印刷物や刊行物をデザイン、編集して作りたいとか、映像作品やソフトウェア、はたまた建築物を建造したいとか、美味しいカレーを作りたいとか、モノとして目に見えて、手に触れることができるので、少しイメージしやすいかもしれません。
形のないモノの場合は、誰かに対してサービスを提供する、例えば、カウンセリングをして目の前のクライアントの心を癒す、とか、SNSマーケティングを手伝って顧客企業の認知度向上を手伝うとか、業務改善により作業を効率化する、といったことが考えられます。
それだけではありません。売上や利益を生み出したいとか、組織、法人を作っていきたい、とか、事業を作り上げたい、といったこともあります。
獲得目標は、プライベートなものでも構いません。素敵な相手と恋愛したい、とか、海外旅行で思い出を作りたい、とか、そういったことでもよいのです。
目に見えるカタチがあるにせよ、ないにせよ、なにかしらの「名前」をつけることができる対象であり、そして、社会活動・経済行為として達成目標となり得るモノや現象。
「あれ」を目指すんだ!というときの「あれ」。それが、獲得目標です。
なぜプ譜では成果物に対する記述が少ないのか
プ譜においては、獲得目標の表現は非常にあっさりしています。右下に、ちょこんと、メモ書き程度に書き添えているだけです。
https://gyazo.com/e03ed6e5f629820d7907726377c04290
これは例えば、WBSによるプロジェクト表現と比較すると、全然違うということがよくわかります。
下の図は、IT開発における成果物を分解するにあたっての一例です。IT開発に限るのも良くないので、他の人工物についても、簡単な例を出してみます。
https://gyazo.com/d2da6ee006eeb0cefba017f2a8cf807a
https://gyazo.com/a1319471b2b77f17b5cfbb86dea8f0eb
どんな人工物も、それを構成する部品に分けていくことができます。そして、すべての部品を正しく作り上げ、正しく組み合わせていけば、必ず目標とする人工物を作り上げることができます。こうした発想は、米国の軍事思想に由来しています。
https://gyazo.com/7afee2721535da37bfd42ccc0230ec36
(参考)
Practice Standard for Work Breakdown Structures Second Edition
アメリカ国防総省管理会計研究:調達制度ライフサイクル・コスティング研究を起点として 岡野憲治
たいていのマネジメント理論の出自は、遡っていくと、いつかどこかで軍学に辿り着きます。プロジェクトマネジメント理論もまた、その例に漏れないわけですが、今日、一般的なビジネスプロジェクトのマネジメントの教科書、参考書においても、必ずこの「成果物の定義」が「管理」の中心に置かれているのです。
しかし、プロジェクト進行支援家として、後藤は常に、そこに大きな疑問を抱えているのです。
確かにどのような成果物を生み出すのかが明快な取り組みであれば、WBSによる計画と管理が最短ルートでしょう。しかし、私たちが実際に直面するビジネスプロジェクトにおいて、成果物が本当に自明な取り組みが、どれぐらいあるのでしょう?
我々の周りを見回すと「手に入れたけど、結局使わなかったモノ」で、満ちあふれています。
いや、「使わなかった」ならまだいいのです。
「邪魔だけど、手に入れた以上は使わざるを得なくなったモノ」
「そのうち、それがあることが当たり前になってしまったモノ」
「いい加減、もう不便なので入れ替えようとしたら、まさかの不満の声に巻き込まれた」
「なんとか説得し、いざ入れ替えようとしたが、どうやったらいいかがわからずに、途方に暮れる」
こうしたバカバカしい悲喜劇に、現代社会は、満ちているのです。
(「モノ」の部分は、ソフトウェア、でも、車両、でも、工作機械、でも、SaaS、でも、AI、でも、ドローン、でも、食器、でも、マイホーム、でも、肩書き、でも、財産、でも、評価制度、学歴、でも、ヒット作、でも、なんでも別の人工物に置き換え可能です。是非、あなたの身の回りにある、そういうものを、探してみてください)
なぜ、こういうことが起きるのか。比較的大きなビジネスプロジェクトの場合、「成果物」を、当初約束した期限のうちに、約束した要件を満たすように作り上げるということが、取り組みの大前提となります。
それがいかに困難なことか、ということを考えるのに書籍「熊とワルツを」は、とても参考になります。
その過程が困難であればあるほど、いざプロジェクトが発車してしまったが最後、「なぜそれに向かっているのか」が、宇宙の彼方へ棚上げされてしまうものです。
もちろん、筋の良い企画のもと、狙い通りの成果物が生み出されることもあります。「なぜなのか」を考え直し、軌道修正されることも、まったくないこともありませんが、世の中の98%は、そもそも要らないものを作るために四苦八苦している、というのが現実なのです。
プ譜が、獲得目標をこのように小さく扱っている意味は、このことを戒めるためなのです。
プロジェクトを、滑稽な右往左往にしないために
もちろん、作るべき成果物を適切に見定めることができている場合は、WBSによるプロジェクト管理は、おおいに結構です。WBSを否定する必要はありません。ただ、プロジェクト管理とWBSをあまりに同一視するのは、非常に危険な「手段の目的化」の罠であり、このことについて、何度注意を喚起しても、足りないのです。
考えてみると、そもそも獲得目標が定まっていない、あいまいで、ぼんやりしたプロジェクトも非常に多いものです。プロジェクトチームが発足し、キックオフミーティングが催され、さも何かが始まったかのような雰囲気を装っているのに、実質的には何も始まっていない、ということは、よくあります。
一方で、状況として、最初からそれを具体的に定めることが、原理的にいって不可能だ、という場合もあり、これもこれで、なかなか難しい問題だったりします。
獲得目標を適切に見定めることができないうちに、取り組みに対する制約が強すぎる契約関係を結び、座組みを形成してしまうと、成果物を作るので精一杯になってしまい、作ったけれど、うまく活かせずに、成果物が墓場に眠ってしまう、という顛末を迎えてしまうことが多いものです。
ECサイトを作って収益をあげたかったのに、サイトのリリースが目的化してしまい、リリースした後にどうなりたいかまで考えが及ばない、なんていうことは、いかにもありふれた話です。実際のところは、成果物の完成にすら辿り着かない、とか、完成していないのに、さもできたように擬態する、とか、できたものとして振る舞うように、権力を行使して無理強いする、なんてことも、大いにありふれています。
このように見ていくと、状況を俯瞰的に理解し、適切な獲得目標を立て、リスクも考慮して全体発令する決心ができることこそが、優れたプロジェクト推進者の資質だとお分かり頂けると思います。
しかし、実際には、適切な決心ができる指導者というのは極めて希少であり、だからこそ、世の中のプロジェクトのほとんどがうまくいっていないのです。
だからこそ、プ譜では「勝利条件」という概念を大切にするのです。 補足
獲得目標と勝利条件は、プロジェクトゴールをともに表現する、対となる表現
獲得目標が具体的な成果物を示すのとは対照的に、勝利条件は、その成果物が成立するための状況、あるいは成立した状況とはどのような条件を満たしているのかを表現する
上記記述の意味を確定させるためにはそもそも「モノ」とは何か、を語る必要がある
認知科学の言葉を借りるならば、それは「五感によって知覚されるもの」である
経時的に変化せず、常に同じ情報を提供し続けている存在を日本語では「モノ」と呼ぶ
「モノ」の対義語は、「コト」である、つまり、モノ変化することについて、日本語では「コト」と呼ぶ
獲得目標は、モノとしてのゴールであり、勝利条件とは、コトとしてのゴールである、と、言い換えることもできる