アイデアの出し方:知財創出の方法論
アイデアは、既存知識の組み合わせにより創出できる。
「創造」とは、「それまでなかったものを初めてつくり出すこと」(三省堂『大辞林』)をいう。
ここでは、結果のことしか言っていませんね。「それまでなかったもの」=新しいものですね。では新しいものはどうやって作るのでしょうか?
「創造とは、人が異質な情報群を組み合わせ統合して問題を解決し、社会あるいは個人レベルで、新しい価値を生むこと」(日本創造学会)という定義もあります。
「異質な情報群を組み合わせ統合」ということですね。
https://gyazo.com/7772020ef546870c861a5fa26d4faec8
シュンペーターの言葉「他のものを創造すること、あるいは同じものを異なる方法で創造することは、これらの構成素材・影響要素を異なるやり方で組み合わせることである。いわゆる開発とは、新しい組合せを試みることにほかならない」入山章栄:世界の経営学者はいま何を考えているのか 英知出版 p127
スティーブ・ジョブズはピカソの名言「Good artists copy, great artists steal.」
を引用して以下のように言いました。
https://gyazo.com/23758160f2fbd560d2704108e64baf89
ピカソは、先人の名画を参照し、それを基に独自の表現で多数の作品を創作しています。
https://gyazo.com/e015fe233c48ec237a3120100cd568f8
ピカソは何をしたのでしょう?
換骨奪胎という言葉があります。
大辞林には、「冷斎夜話」による。骨を取り換え、胎児を取って使う意〕
古人の詩文の発想・形式などを踏襲しながら、独自の作品を作り上げること
モチーフやコンセプトを模倣し、それを独自の表現に作り直したのですね。
では、スティーブ・ジョブズはこのピカソの言葉を引用し、どのように
応用したのでしょう。
スティーブ・ジョブズは、1979年ゼロックスのパロ・アルト研究所(PARC)を訪問し、
そこでゼロックスの実験的コンピューター・Altoを見ます。
ピカソでいう上記のクラナッハ婦人像に相当しますね。それを、Macintoshに応用したわけです。
詳細は、多くの方が言及していますので、そちらを参照願います。
このようなことをしたにも関わらず、スティーブ・ジョブズ率いるアップルは、1997年に
「Think different」キャンペーンを展開する。
https://youtu.be/W5GnNx9Uz-8
思うに、「Think different」は、達成目標として、「違うこと」「違うようにすること」「現状を変えること」
を意味し、新しいものを生む手段として、「真似をするな」ということを意味するのではない、ということであろう。
https://gyazo.com/49b8d162d6302f01a1aba5e1b9338378
シュンペーターが言うように、「他のものを創造すること、あるいは同じものを異なる方法で創造することは、これらの構成素材・影響要素を異なるやり方で組み合わせることである。いわゆる開発とは、新しい組合せを試みることにほかならない」入山章栄:世界の経営学者はいま何を考えているのか 英知出版 p127
公知の情報を模倣し(偉大な芸術家は盗む)、それらを異なるやり方・新しい組み合わせを試みる(Think different)ということになりましょう。
このように知識創造には、必ず、元ネタがあります。換言するならば、模倣無くして創造なし、と言えましょう。
よって、創造の方法・アイデアの出し方を考察するには、模倣と創造の関係を見なければなりません。
模倣と創造の関係については以下を参照して下さい。
2019武蔵野市寄付講座:「ITとルールの今・未来」
我々は、幼い頃より様々なことを学び、思考し、新しい知識を生み出しています。その思考のサイクルを振り返ってみると、こんな活動をしているのではないでしょうか?
https://gyazo.com/9072180b8467bde8d6236709a8e2cc31
知識の入力は、コピーであり模倣です。人は克服しなければならない問題があるとき、それに対し、どのような知識を用いて、解決すれば良いかを考えるでしょう。知識の選別です。既存の知識で解決できるときは、それをそのまま使えば良いでしょう。しかし、既存の知識に「解」がなかったとしたら、新しい解すなわち、新知識を創出しなければなりません。それが、知識の加工・融合という工程です。そのために、知識の検索・探索・思索が行われます。
知識の検索・探索・思索においては、問題や知識の存在に気づく力、知識を選別するためのフィルター・眼力が必要とされます。さらに、既存知を組み合わせて新しい知識を生み出すための発想力も必要とされます。それを補助する様々な手法もあります。
その全体像を示すと、以下のようになるのではないでしょうか?
https://gyazo.com/6167f8e8c1f556f82693de7fb0b101d2
ここで、知財の目利きというのもありますが、何をもって「知財」と定義できるのかを特定できる能力がないと、「知財」を見逃します。そしてそれらを活用し、事業化をするのが、経営者の役割となりましょう。
ここで、知識創造=アイデアの作りについて、いくつか紹介しましょう。
第一の原理・「アイデアとは、既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」
第二の原理・「既存の要素を組み合わせて新しいアイデアを産む才能は、物事の関連性を見つけ出す才能に依存するところが大きい」
を前提として、以下の手法を提案しています。
第一のステップ・・「情報の収集」
第二のステップ・・「集めた情報を頭の中で咀嚼する」
第三のステップ・・「問題を放棄する」
第四のステップ・・「ふとしたきっかけでアイデアが生まれる」・・セレンディピティがここに大きく関係する。第三のステップまでの準備が十分になされ、折に触れ問題を考えていると、偶然にアイデアの糸口が見つかる。
第五のステップ・・「生まれたアイデアを大切に育てる」
秋元 康氏は 次のようなことを言っています。
発明他アイデアの出し方は、クリエータに共通のようである。
『企画のネタは日常の中にある。誰もが知っている食材で料理をつくるのが基本。どこでもある食材の新しい使い方、新しい組み合わせが企画。「あるある話」をすることに似ている。「本屋さんで、なぜ人は、一番上からでなく真ん中辺の雑誌を手に取るんだろう」、と言うと、みんなが「ああ、あるある」と頷く。つまり、企画の入り口というものは気づくことから始まる。』と指摘するのは、 秋元 康 氏である(ヒットを生み出す企画力: 仕事学のすすめ NHK より)。
これ、発明ととても似ています。発明も、何か別世界の天才が行うようなイメージがありますが、実態は、既存技術の中の気づきから生まれます。秋本氏流に言えば、既存の要素技術の新しい使い方、新しい組み合わせが発明。例外的にそうでない発明というのもあろうが、多くは既存技術の新しい切り口、新しい見方による気づきから生まれる。ノーベル賞級の発明も、失敗に基づく偶然的発見から生まれることが多い。
ネタを仕込む(気づきが重要)
秋元氏は、企画のために、「日常的にさまざまな気づきをリュックサックにどんどん入れて、必要なときに取り出すという作業を行っている。重要なのは、その差材に対してどれだけ想像力を働かせて拡大できるかということ」という。
発明も同様である。様々な知見・気づきをとりあえず「ネタ」として記憶のポケットに入れておく。そのネタが、ある日突然、別の作業をしているとき、その作業対象に結びつくのだ。そうだ、あの技術をここに使ってみよう。これとあれを組み合わせてみたら、きっと、面白い事が起きそうだ。このような気づきと組み合わせが新しい知を生み出す。
森健一の「創造力を磨く7か条」も参考になります。
森健一さんは東芝で「郵便番号読み取り機」や「日本語ワープロ」等の発明をした方で、コンセプト創造の方法論として、以下を提案しています。
1)開発リーダーの夢に共感する頭の柔軟な色々な分野の人を7±2人集める。
2)未来の顧客は誰で、何のために新製品を求めているかを明確にする。
3)顧客の立場に立って新商品に求められる機能のアイディアを多く発掘する。
4)KJ法によりアイディアをグループ化し、内容を適切に表現したラベルを付ける。
5)未来の顧客の立場に立って最も重要だと思われる3つのグループをえらびだす。
6)選ばれた3つのアイディアグループを市場が実現を求める順番に並べ直す。
7)それぞれのアイディアグループの技術的な実現可能性を検討する。
私(遠山 勉)は、アイデアの作り方として、以下を提唱したいと思います。基本的には、上記したジェームズ・W・ヤング氏の方法に賛同しますが、一部が違います。
まず、前提として、「創造とは、既存の「知」と「知」の組み合わせであり、組み合わせの段階に生じる、洞察、予測、連想に従った新規知である」と定義します。
ここで、集めた情報を咀嚼するとは、情報をその時点であれやこれやと検討するということです。通常ここで何が起こるかというと、咀嚼したつもりが・・・集めた情報について狭視眼的に優劣をつけ、取捨選択をしてしまって、ひょっとすると大切な情報を捨ててしまうという現象が起きてしまう。そこで、咀嚼する前に問題を放棄してから、集めた情報を頭の中で咀嚼する。ある切り口で情報を見直す。これは、ヤング氏の言うところの情報の関係性。私が言うところの「洞察、予測、連想」・・・ある切り口を突破口に、様々な組み合わせ結果を想定してみる。何が生まれるのか。(これ、IP-SD法の方法です)。
この第三のステップと第四のステップは密接で、組み合わせに際し、「偶然」を利用する。セレンディピティを呼び込むには、常識等を排除し、偶然を楽しむことが必要ということでしょう。そのためには、下手に咀嚼などしない方が良いのです。
第一のステップ・・「情報の収集」
第二のステップ・・「問題を放棄する」(静的分析)ここでは、現状分析をします。また、集めた情報を、また、問題を取り巻く様々な情報を価値の優劣を付けずに並べ、客観的に整理します。
第三のステップ・・「集めた情報を頭の中で咀嚼する」(動的分析)・・上記静的分析で客観的に並べた情報を俯瞰して、それらの関係性を検討する。
第四のステップ・・「ふとしたきっかけでアイデアが生まれる」・・セレンディピティがここに大きく関係する。第三のステップまでの準備が十分になされ、折に触れ問題を考えていると、偶然にアイデアの糸口が見つかる。ヤング氏の方法では、第二のステップで「集めた情報を頭の中で咀嚼する」ということをしています。すると、ここで、情報の価値判断をしてしまい、問題解決に必要でないと思い込んでいる情報を捨ててしまいます。よって、その後に、第三のステップで「問題を放棄する」ことをしてももはや手遅れになるわけです。先に「問題を放棄する」ことで、集めた情報をそのまま捨てずに客観的に整理しておき、次に、問題解決のために、全ての情報を等価値に扱い、それらの意味を考え、それらの様々な結合(関係性の検討)により問題解決ができるかを逐一検討して行く。
第五のステップ・・「生まれたアイデアを大切に育てる」・・上記検討の結果、これだと思ったものをさらに検討して育てる。
*IP-SD法・・静的分析・動的分析・・・これは、遠山が推奨する発明把握の手法で、特許明細書を書くときの分析手段です。
2020/5/1 改訂・・まだまだ続きます:順次書き足していきますのでご期待下さい。