要件事実と法的三段論法
要件事実と法的三段論法
要件事実
要件事実とは、実体法の規定における、権利の発生、障害、消滅等の各法律効果の発生要件に該当する具体的事実をいう。
一般に、主要事実(直接事実)と同様の意味で用いられ、間接事実(事情)と対比される(有斐閣・法律学小辞典)
主要事実とは,権利の発生,変更,消滅という法律効果の判断に直接必要な事実(請求を理由付ける事実)
間接事実とは,主要事実の存否を推認するのに役立つ事実・・請求を理由付ける事実に関連する事実(民訴規53(1))とも言う
補助事実とは,証拠の証明力に影響を与える事実
法的三段論法
(事実認定と法的評価)
大前提: 条文(特定の要件事実があれば所定の法的効果が生まれる)
小前提: 認定した事実関係の中の特定の事実が要件事実に該当(事実の認定と法解釈)
結 論: 法的効果の有無
法律のあてはめ
1) 事実関係の特定(当事者の生の主張から事実のみ見出す)
2) 法的根拠(条文等)を特定(要件事実は何か確認)
3) 法律要件へのあてはめ(事実関係の中から要件事実に該当する主要事実を見出す)
4) 法律効果の発生
5) 法律上の請求権発生
実体法の規定の種類(1)
1)権利根拠規定 一定の法律効果の発生を定める規定
特100条 特許権者又は専用実施権者は、自己の特許権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
民法709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
2)権利障害規定 法律効果の発生を妨げる旨を定める規定
特69条 特許権の効力は、試験又は研究のためにする特許発明の実施には、及ばない。
特78条2項 通常実施権者は、この法律の規定により又は設定行為で定めた範囲内において、業としてその特許発明の実施をする権利を有する。(特許権行使に対する抗弁事由として通常実施権の許諾を受けたこと、自己の行為が設定範囲内の行為であることの主張・立証により差し止め請求権の存在を否定)
実体法の規定の種類(2)
3)権利阻止規定 権利の行使を阻止する権利を定めた規定
特104条の3 特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により又は当該特許権の存続期間の延長登録が延長登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。
4)権利消滅規定 一旦発生した法律効果の消滅を定める規定
特67条 特許権の存続期間は、特許出願の日から二十年をもつて終了する。
特許権侵害に基づく差止請求権の要件事実
特許法100条・・「特許権者又は専用実施権者は、自己の特許権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。」
イ 自己(原告)が特許権者(又は専用実施権者)であること
ロ 相手方(被告)が、侵害行為をしていること (違法性)
① 業として(別紙目録記載の)物の製造等(又は方法)を実施していること
特許法第68条に規定された、「特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する。」に反して、特許権者の「専有」を侵す行為、すなわち、特許法第2条3号に規定された、発明の「実施」行為を権原なく行うこと。
②侵害対象とされる物又は方法が、原告の特許発明の技術的範囲に属すること
特許法第70条第1項により、願書に添附した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定められる。
特許権侵害に基づく損害賠償請求権の要件事実
特許権侵害に基づく損害賠償請求の法的性質は民法709条以下の不法行為に対する損害賠償請求
民法709条による損害賠償請求の要件事実は下記のとおりである。
イ 権利又は法律上保護される利益の存在
ロ 当該権利の侵害(違法性)
ハ 侵害行為が故意又は過失によりなされていること
(特103過失の推定)
ニ 相当因果関係のある損害の発生とその額
(特102損害額の推定)
訴訟における攻防
原告は訴訟物として一定の実体法規定の法律効果として権利又は法律関係を提示する。請求の趣旨+請求の原因(請求原因事実)
請求原因事実は訴訟物たる権利又は法律関係の発生を理由づける事実
請求原因事実は訴訟物たる権利又は法律関係の発生を理由づける事実を前記実体法規定の法律要件に即した事実(主要事実、要件事実)として主張する
抗弁とは、請求原因事実と両立する新たな事実であり、かつ、その存在によって請求原因事実にもとづく法律効果を否定(障害、消滅、阻止)する効果が生じる事由。