知的財産法 後期第2回
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問:自動車メーカーの企画開発部に勤務するAさん。新しいモデルのデザインとして、フロントグリルの形状デザインを任された。売れ筋の車を見ると、フロントグリルに特徴があり、何か立派に見える。立派に見えるフロントグリルのあり方としてどうあるべきかを考えていたところ、ある日ひらめいた。これまでの車は、フロントバンパーの存在がある意味邪魔となっていたため、フロントグリルはフロントバンパーより上の領域でデザインされていた。今回は、バンパーの存在をデザイン的に無視し、フロントグリルのデザインをフロントバンパーの上下にわたり大きく広げることとした。もちろんバンパーを無くすことはできないので、デザイン的にはフロントグリルの裏側に隠すようにした。
この「フロントグリルのデザインをフロントバンパーの上下にわたり大きく広げる」という考え方は、意匠法ではどのように保護されるのだろうか。意匠法の保護対象との関係で説明しなさい。
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意匠法の保護対象とは何かを理解し、特許法との違いを考察し、それがどのように法体系に影響するのかを考える。
特許法との違い
発明の定義
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意匠法で、このコーラのボトルを保護するとしたら、ボトルの何を保護対象としているのでしょうか?
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これは、元のコカ・コーラとは少々違う形のボトルですが、意匠登録されています。特許の場合と保護において何が違うのでしょう。
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意匠法第一条 この法律は、意匠の保護及び利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする。
なぜ、「意匠の創作の保護及び利用を図ることにより」としていないの?
(意匠権の効力)
第二十三条 意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有する。
特許法第一条 この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする。「発明」の保護=「発明」を奨励・・発明=技術思想としての発明を保護し、技術思想としての創作(発明)を奨励。
これと同じパターンにするなら、意匠法も「意匠の創作の保護及び利用を図ることにより意匠の創作を奨励」としなければなりません。でも、そうしていない。
(特許権の効力)
第六十八条 特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する。
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2019年改正法で、これに加えて、建築物の形状等、画像も保護対象となった。
2019年改正法
(定義等)
第二条 この法律で「意匠」とは、
物品(物品の部分を含む。第八条を除き、以下同じ。)の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合(以下「形状等」という。)、
建築物(建築物の部分を含む。以下同じ。)の形状等又は画像(機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限り、画像の部分を含む。次条第二項、第三十七条第二項、第三十八条第七号及び第八号、第四十四条の三第二項第六号並びに第五十五条第二項第六号を除き、以下同じ。)であつて、
視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。
2019年改正法
物品の意匠に加え、保護対象として、建築物(建築物の部分を含む。以下同じ。)の形状等又は画像を入れた。
「物品」は取引可能な動産を指すものとされており、従来は、組み立て家屋などは物品として保護対象としていたが、不動産たる建築物は保護されなかった。今回、物品と並列に建築物を保護対象として明確に規定している。
これまでは、画像を物品の枠内で無理に保護しようとしてきたが、画像を物品とは別途保護対象に規定し、保護することとしている。ただし、すべての画像が登録の対象となるわけではないことに注意(単なる装飾的なものであって機器の機能に関連しないものは保護対象ではない)。
2019年改正法ではさらに、内装の意匠という意匠概念が加わっている。
意匠法8条の2
2019年改正法 (新設)
(内装の意匠)
第八条の二 店舗、事務所その他の施設の内部の設備及び装飾(以下「内装」という。)を構成する物品、建築物又は画像に係る意匠は、内装全体として統一的な美感を起こさせるときは、一意匠として出願をし、意匠登録を受けることができる。
東京地方裁判所平成28年12月19日判決 平成27(ヨ)22042
仮処分命令申立事件より
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特許庁
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意匠法は、物品の販売促進機能による産業の発達を企図しているが、物品識別機能については、関与しない。
時事上識別昨日があるので、登録要件で、
(意匠登録を受けることができない意匠)として、
第五条 次に掲げる意匠については、第三条の規定にかかわらず、意匠登録を受けることができない。
二 他人の業務に係る物品、建築物又は画像と混同を生ずるおそれがある意匠
という規定を設けている。
コカ・コーラの立体商標
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意匠は物品(動産)に限定されていたため、不動産たる建築物の意匠はこれまで原則保護対象から排除されていた。
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https://gyazo.com/54068792407b490a306ae190dc0b70bd
意匠法は、物品の意匠を保護する・・創作したデザイン思想の具体化された結果物をそのものを保護対象とするので、創作の範囲を保護するため、類似概念を導入。
(意匠権の効力)
第二十三条 意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有する。ただし、その意匠権について専用実施権を設定したときは、専用実施権者がその登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有する範囲については、この限りでない。
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https://gyazo.com/2716b852b60c9412f37084ab83bc59dc
2019年改正法では、上記下通り建築物自体も保護対象となっている。
第二条 この法律で「意匠」とは、物品(物品の部分を含む。第八条を除き、以下同じ。)の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合(以下「形状等」という。)、建築物(建築物の部分を含む。以下同じ。)の形状等又は画像(機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限り、画像の部分を含む。次条第二項、第三十七条第二項、第三十八条第七号及び第八号、第四十四条の三第二項第六号並びに第五十五条第二項第六号を除き、以下同じ。)であつて、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。
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https://gyazo.com/f26a6ca80edaeda33a77203bd3ea1d69
https://gyazo.com/a50169e841470f725381226c38c24683
https://gyazo.com/b7aa21e8f674c7bef89e8f9288373ba5
https://gyazo.com/fb41db699177a461d7a788916a50facc
https://gyazo.com/34a8e78527ded5be9448084e3edf1dde
組物 特許庁HPより
組物の物品構成表 特許庁HPより
意匠登録の要件
(意匠登録の要件)
第三条 工業上利用することができる意匠の創作をした者は、次に掲げる意匠を除き、その意匠について意匠登録を受けることができる。
一 意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠
二 意匠登録出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた意匠
三 前二号に掲げる意匠に類似する意匠
特許法との比較
(特許の要件)
第二十九条 産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
一 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
二 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
三 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明
2 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。
https://gyazo.com/5517508b785776faea65c68030e686bf
https://gyazo.com/99c282763821214145441e5038a7cd1c
なぜ、特許法29条のように、産業上利用 と言わず工業上利用と言ったのか。
https://gyazo.com/3909d976aa736c79de38555a2f41eb06
https://gyazo.com/66b71e8e7de497a521d23017c13b5bad
2019年改正法
(意匠登録の要件)
第三条
2 意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られ、頒布された刊行物に記載され、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた形状等又は画像]]に基づいて容易に意匠の創作をすることができたときは、その意匠(前項各号に掲げるものを除く。)については、前項の規定にかかわらず、意匠登録を受けることができない。
質問:意匠法3条1項3号の公然知られ、頒布された刊行物に記載された意匠に類似する意匠と、3条2項でいう公然知られ、頒布された刊行物に記載された形状等又は画像に基づいて容易に創作できた意匠との差異を説明しなさい。
https://gyazo.com/011057826fc8672f5490457cc177be56
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先願意匠の一部と同一又は類似の後願意匠の保護排除
第三条の二
意匠登録出願に係る意匠が、
当該意匠登録出願の日前の他の意匠登録出願であつて当該意匠登録出願後に第二十条第三項又は第六十六条第三項の規定により意匠公報に掲載されたもの(以下この条において「先の意匠登録出願」という。)の願書の記載及び願書に添付した図面、写真、ひな形又は見本に現された意匠の一部と同一又は類似であるときは、その意匠については、前条第一項の規定にかかわらず、意匠登録を受けることができない。ただし、当該意匠登録出願の出願人と先の意匠登録出願の出願人とが同一の者であつて、第二十条第三項の規定により先の意匠登録出願が掲載された意匠公報(同条第四項の規定により同条第三項第四号に掲げる事項が掲載されたものを除く。)の発行の日前に当該意匠登録出願があつたときは、この限りでない。
新規性喪失の例外(意4条)
第四条 意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至つた意匠は、その該当するに至つた日から一年以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同条第一項及び第二項の規定の適用については、同条第一項第一号又は第二号に該当するに至らなかつたものとみなす。
2 意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して第三条第一項第一号又は第二号に該当するに至つた意匠(発明、実用新案、意匠又は商標に関する公報に掲載されたことにより同条第一項第一号又は第二号に該当するに至つたものを除く。)も、その該当するに至つた日から一年以内にその者がした意匠登録出願に係る意匠についての同条第一項及び第二項の規定の適用については、前項と同様とする。
意匠登録を受けることができない意匠 (意5条)
第五条 次に掲げる意匠については、第三条の規定にかかわらず、意匠登録を受けることができない。
一 公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある意匠
二 他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠
三 物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなる意匠
公序・良俗を害する意匠
人倫に反するもの、正義観念・国民感情に反するもの、羞恥・嫌悪の念を起こさせるのも、元首・国旗・皇室に対し礼を失するものなどがある。
例として、審査基準では、以下を上げる。
公の秩序:元首・国旗を表した意匠、皇室の菊花紋章を表した意匠など
善良の風俗:わいせつ物を表した意匠
他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれがある意匠
意匠は、物品の外観・・物品の出所を表示する機能も有する場合がある。・・・他人の業務に係る物品との誤認混同・・取引秩序を乱し公益に反する。
他人の業務・・営利・非営利問わず、継続的に行われるもの。
混同・・物品相互の形態の混同ではなく、需要者による出所の混同(形態の混同は、3条①で拒絶)
他人の著名な商標を表した意匠など
他人の著名でない商標を表した意匠・・26条調整
物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなる意匠
物品の機能を確保するために不可欠な形状・・技術的創作であり、特許・実案法で保護すべきもの。
機能上とらざるを得ない形状まで侵害となるのは、かえって弊害である。
意匠的価値を付加していない・・・従来は、「視覚を通じて美感を起こさせない」例として、3条1項柱書で拒絶していたが、部分意匠制度の導入に伴いこのような意匠が増えることを懸念し、不登録事由として明確化。
先願主義
第九条 同一又は類似の意匠について異なつた日に二以上の意匠登録出願があつたときは、最先の意匠登録出願人のみがその意匠について意匠登録を受けることができる。
2 同一又は類似の意匠について同日に二以上の意匠登録出願があつたときは、・・協議・・協議不成立・・いずれも、登録できない。
3 出願放棄、取り下げ、却下、拒絶査定・審決確定・・・先願の地位喪失(例外、協議不成立の場合)
主体的要件意匠登録を受ける権利
意匠登録を受ける権利を有する者であること
意匠登録を受ける権利は、意匠創作時に意匠創作者に発生する・・・出願人は、創作者かその承継人でなければならない。
意匠登録を受ける権利を有しない・・・冒認出願(意17条4号)
意匠登録を受ける権利
発生・・主観的に意匠が完成したとき
主体・・意匠創作者に発生・・承継人(特33、34)
出願前の承継・・出願が第3者対抗要件、職務発明の場合・・法人帰属or予約承継可(特35条)
承継しない者の出願・・冒認出願(無効理由123①6号)(特許権の移転請求 74条①)
出願後・・特許庁への届出
客体・・意匠完成時の意匠・・・出願時に意匠図面に特定された意匠
効力・・・仮通常実施権(意5条の2)を設定できる。
特許のように仮専用実施権(特34の2から34の5)はない。
商標法において仮通常使用権の制度はない。
消滅・・設定登録、拒絶査定(審決)の確定、権利能力喪失
意匠登録を受ける権利の性質
意匠権の設定登録までの間に、意匠による利益状態を暫定的に保護するために認められた権利
国家に対し、意匠登録を請求することのできる公権的性格
意匠を支配する財産権としての私権的性格
質権・抵当権の対象とならない
譲渡担保になりうる
職務意匠
自由意匠
従業者意匠
職務意匠
従業者の範囲
相当の対価
従業者の転職・退職後の問題
★職務商標(ネーミング行為)はなぜないのか
意匠創作時に発生する権利
意匠登録を受ける権利
意匠創作者名誉権 パリ条約4条の3 特許法26条・28条・意匠法施行規則16条4号
他の権利も同時に共存することがある
特許を受ける権利、実用新案登録を受ける権利
著作権
★意匠の物品につき、ネーミングをしたとき、商標登録を受ける権利は発生するのか?・・・・発生しない。
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