知的財産法 前期第5回
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本日の課題:法人発明を認めるべきか? 特許法の目的との関係で論じる。
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今回学ぶこと
特許法では、発明しただけでは保護されず、それを特許出願し、審査により登録して始めて特許権が設定されなければ保護されません。出願前、出願中、設定登録後の3つのステージがありますが、ここでは、出願前にどのような法的問題が生じるのかを学びます。
そもそも、発明はいつ完成したことになるのか、
発明者は誰なのか、
発明によってどのような権利が生まれるのか(これについては第6回目でさらに引き続き詳しく講義します)
その権利の性質はどんなものなのか、
出願前に出願人がしておくべきことは何なのか、
等がポイントです。
エピソード
株式会社越前屋の商品企画開発部の本田さんは、社長の鈴木から新しい餅の開発を命じられ、試行錯誤の末に、「側周表面の周方向に切り込み部を設けた切り餅」を開発した。そして、同僚の豊田が「ライン餅」と名付けて発売することとした。そこで、この切り餅につき、特許出願をすることとした。出願前の権利関係はどうなっているのだろうか。ライン餅を発明した人は、どんな権利を有するのだろうか。株式会社越後屋は従業員のした発明について何らかの権利を持つのだろうか。
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今日の演習:誰が発明者?
ライン餅開発の経緯
社長の鈴木から新商品開発の命を受けた本田は、新しい餅の開発に取り掛かった。部下の、川崎と葉山に自社だけでなく市販されている餅を手に入れるように命じ、実際に焼いてみて、その焼き上がりを調べろと命じた。川崎や葉山が実際に焼いてみると焼き上がりは、いずれも、加熱による膨らみ偏りが出てしまう。それを回避できる餅を開発しようということになった。さて、どうしたものかと思案していたところ、葉山がユニークな発見をした。購入した餅の中に、2つの餅が重なりあってくっついて離れなくなってしまったものがあった。やむなく、そのまま焼いたところ、重なった接合部分を境に、上の餅と下の餅に別れて膨らみ、全体として綺麗な焼き上がりになったというのだ。それをヒントに、川崎がその境部分を人工的に作ろうと、餅の側面に切り溝を入れてはどうかと提案し、早速、葉山が切れ目を入れてみると、同じようにうまく餅が切り溝を境に上下に別れて膨らむことがわかった。
この知見をもとに、特許出願をすることとなった。
さて誰を発明者として出願すれば良いか迷って、社長に相談したところ、会社は家族同様だ、関係した者はみんな一緒に発明者だ、当然、私もだ、と言う。
それを聞いた川崎が、「実は、餅を家に持ち帰り、妻の真世子にも焼いてもらっていた。妻の真世子は、崎山製菓のせんべい工場でパートで働いており、せんべいの焼き方を見ていたので、餅を焼くのも上手だった。妻の餅の焼き上げデータは、会社への報告書にも乗せてあるので、妻も発明者に入れて欲しい」と言っていた。
あなたは株式会社越前屋の知財部員である。上記のような事情の下、誰を発明者として特許出願したらよいだろうか。
問:発明者を下記から選びなさい
鈴木
本田
川崎
葉山
川崎真世子
https://gyazo.com/09e8736b56ea6274362e204ac9c27c77
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出願から権利消滅まで・・特許庁HP
「知っておきたい特許法』工業所有権法研究グループ(株式会社朝陽会)(22訂版)
p10~16の説明、18ページの図
https://gyazo.com/ace5fd8fdc324805567b4bc7e96dafb2
発明の完成
発明の完成とはどういう状態だろうか。発明の完成を定義してみよう。
発明は、いつ完成したと言えるのであろうか?
発明の定義から考えてみよう。
発明の定義
https://gyazo.com/196a812311346552d7727a9ae3aad3dd
ヒント:発明の定義をよくよく見ると答えがわかります。
誰が発明者か?・・発明者とは、発明を完成させた者ですが・・複数の者が完成に至るまでに関与したとき、誰が発明者になるのかは難しい問題です。
共同発明となるかならないかの判断基準は?
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発明者の定義・・・発明者とは、当該発明の創作行為に現実に加担した者だけを指し、単なる補助者、助言者、資金の提供者あるいは単に命令を下した者は、発明者とはならない。
中山信弘『工業所有権法(上)特許法第2版増補版』(東京:弘文堂、2000年)57-60頁。 発明の成立過程=着想+具体化
課題の設定・課題解決の方向付け・解決手段の具体化
共同発明者とは?
〔判断基準〕 発明は技術的思想の創作であるから、 実質上の協力の有無は専らこの観点から判 断しなければならない。思想の創作自体に関係しない者、たとえば、単なる管理者・ 補助者又は後援者等は共同発明者ではない。吉藤幸朔・熊谷健一補訂『特許法概説第13版』(東京:有斐閣、1998年)187-188頁。 以下の者は、共同発明者ではない。
例 1)部下の研究者に対して一般的管理をした者、たとえば、具体的着想を示さず単に通常のテーマを与えた者又は発明の過程において単に一般的な助言・指導を与えた者(単なる管理者)
例 2)研究者の指示に従い、単にデータをまとめた者又は実験を行った者(単なる補助者)
例 3)発明者に資金を提供したり、設備利用の便宜を与えることにより、発明の完成を援助した者又は委託した者(単なる後援者・委託者)
発明の成立過程において、着想の提供(課題の提供又は課題解決の方向づけ)を行っ た者、着想の具体化の 2 段階に分け、各段階について実質上の協力者の有無について 次のように判断する。
提供した着想が新しい場合は、着想(提供)者は発明者である。ただし、着想者が着想を具体化することなく、そのままこれを公表した場合は、その後、別人がこれを具体化して発明を完成させたとしても、着想者は共同発明者となることはできない。両者間には、一体的・連続的な協力関係がないからである。
単なる着想の提供:例え新規であっても具体化が予測できない場合は発明者ではない(東地平成14年8月27日判決平成13年(ワ)第7196号 「細粒核事件」 )
「細粒核事件」
東京地裁平成 14年8月27日判決平成 13年(ワ)第7196号
「一般に、発明の成立過程を着想の提供(課題の提供又は課題解 決の方向付け)と着想の具体化の2段階に分け、1提供した着想が新しい場合には、着想(提供)者は発明者であり、2新着想を具体化した者は、その具体化が当業者にとって自明程度のことに属しない限り、 共同発明者である、とする見解が存在する。上記のような見解については、発明が機械的構成に属するような場合には、一般に、着想の段階で、これを具体化した結果を予測することが可能であり、上記の1 により発明者を確定し得る場合も少なくないと思われるが、発明が化学関連の分野や、本件のような分野に属する場合には、一般に、着想を具体化した結果を事前に予想することは困難であり、着想がそのまま発明の成立に結び付き難いことから、上記の1を当てはめて発明者を確定することができる場合は、むしろ少ないと解されるところであ る。」と判示
製剤や化学分野の発明にあっては、機械分野の発明と は異なり、「着想を具体化した結果を事前に予想することは困難」であるところから、提供した着想がたとえ新しくても、それだけで(新しい着想の提供のみで具体化に協力しておらない限り)、発明者と認定で きない旨判示した。
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