メンバー1人1人のスキルアップを促す「等級(グレード)」と「給与テーブル」|風音屋(かざねや)
L2メンバーには、1年後までにL3にグレード昇格することを目指していただきます。1年後にL3として認められるには、最初の半年でL3の働き方にトライし、次の半年でL3の動きを定着させることになります。スケジュールに余裕はありません。
「L2だから成果を出さなくてもOK」ではありませんし、「L2は皆が優しく手取り足取り丁寧に教えてあげる存在」でもありません。お金をもらって顧客に価値を提供するプロフェッショナルの1人として、早期に成長することを期待しています。
残業しないという前提のもとで、自分の担当業務を行いながら、会社全体を見渡してボトルネックをカバーできる水準です。担当業務のアウトプットが、そのまま会社の仕組みになったり、複数の案件に横展開できることが求められます。
社内向けには「データ基盤のセキュリティ要件定義書」のフォーマットを例に挙げて説明しています。某案件の成果物なのですが、完成度が高く、そのまま社内標準テンプレートになっています。社内に留めておくのがもったいないくらいで、書籍に掲載して沢山の人に届けたほうが世の中のためになるだろうな、といった声が頻繁に挙がります。普段の業務でそういう発明を自然と行える水準がL5です。
L5水準のメンバーたちにとって、毎日の仕事が発明のための素材に見えています。困難で複雑な問題が出てきたとき、未知のトラブルが起きたときには、ストレスを感じるのではなく「これはベストプラクティスを開拓するチャンスだ」とワクワクしているような人たちです。そして、実際にベストプラクティスを開拓し、業界にインパクトを与えるところまでやり抜くのがL5というグレードです。
風音屋では「L1・L2」と「L4・L5」とで、働き方を分けています。
L1・L2のメンバーには「まずはスキルアップを目指してほしい」「まずは一人前の活躍ができるようになってほしい」ということを伝えています。経験値を少しでも多く獲得していただきたいと考え、月30時間までの残業を認めています。
「大量の案件を楽しみたい」「ガンガン稼ぎたい」というメンバーには、成果連動インセンティブを設けています。年収1,000万円のメンバーが2倍の案件を対応するのであれば、2,000万円を支払います。これはエース人材の給料を補正するための制度です。上限は定めていません。営業やコンサルタントなど、売上を直接稼ぐ人たちの世界では「給料の3倍の売上を稼げ」と言われることがあります。年間6,000万円の売上に貢献した人材には、年間2,000万円を支払うのが適正水準となります。
なお、「Can」のスキル水準がグレード(=月給)に連動する一方で、「Must」の目標達成は賞与(ボーナス)に連動しており、クライアントの課題解決や満足度を評価に反映しています。「Must」だけを達成しても、こぼれ球を放置するような振る舞いを続けているとスキル評価で「Can」が低いという評価となります。「Will」はアサインに連動しており、メンバー1人1人にとって理想のキャリアに繋がるような仕事をお任せしています。
自己評価と他者評価のズレを防止するために、社内では「1つ上の水準を目指すつもりで仕事をしてほしい」と案内しています。自分から見た100点と周囲から見た100点が異なるからです。得意な仕事や上手くいっている仕事ならば良いのですが、苦手な仕事や上手くいっていない仕事については、つい自分に対して甘い評価をしてしまうことがあります。
L3のメンバーであれば、L4になったつもりで周りのメンバーをサポートするように案内しています。たとえ上手く貢献できなかったとしても、徐々に全体の状況を見渡せるようになります。自分の担当業務についても、力を入れるポイントと力を抜けるポイントがわかるようになり、これまでよりもスムーズに「L3水準の仕事」ができるようになります。
L2のメンバーであれば、L3になったつもりで自分の業務を進めるように案内しています。L2はサポートが必要な「見習い」ではあります。しかし、見習いだからと言って、お金を払って授業を受けている学生ではなく、お金をもらって仕事をしているプロです。全力で自学自習をし、全力で仕事に向き合うからこそ、周囲はそのスタンスと努力に敬意を払い、サポートを提供するようになるのです。
「マインド」の正体のひとつはこれかも。
個々のスキルに高低のバラツキがあるときは「最終的にマネジメントコストはどのくらいかかるのか?」でグレードを判定しています。「Technical SkillがL4」「Human SkillがL2」という場合には、技術面ではチームメイトをサポートしていますが、一方でマネージャーからモチベーション面でのサポートが必要となります。トータルではL3の評価になります。
単純な平均ではなく、マネジメントコストの実態である点にご注意ください。Human Skillの面で他メンバーに悪影響を与えるような場合は、マネージャーは他メンバーの追加サポートもしないといけないため、トータルのマネジメントコストが肥大化します。この場合、たとえTechnical SkillがL4であっても、トータルの評価はL2やL1となります。
その際に「振る舞い」や「再現性」を重視しています。「実際の行動として期待水準のパフォーマンスを発揮しているか?」「次回以降も同じようなパフォーマンスを安定して発揮できるか?」を問います。
振る舞いが十分ではなく、「L4の技術者と同じだけの知識を有しており、ポテンシャルはあるけど、現実の動きとしてチームに貢献できていない」という場合、スキル水準が高いとは判断できません。現実としてマネジメントコストが浮いていないからです。
再現性が十分ではなく、「たまたま今回は成果が出たけど、次はどうなるか分からない」という場合も、スキル水準が高いとは判断できません。次はマネジメントコストがかかってしまう可能性があるからです。
迷った時にはグレードは悲観的に設定します。低すぎるグレードはすぐに昇格できますが、高すぎるグレードを降格するのは困難だからです。
本人の実力よりグレード判定が低い場合は「この人はもっと上のグレードだ」という評価になり、すぐに適性水準に上げることができます。あまりにも当初の評価が低すぎるようであれば、賞与のタイミングで+αの補正インセンティブを支払うなど、金額面での不足を後から補うことは可能です。優秀な人材には長く働いてほしいので、何らかのフォローアップを検討することになります。
逆に、本人の実力よりグレードが高い場合は、期待がズレてしまい、お互いにとって不幸な状態になります。実際にはL2のスキルで「周囲からサポートを受けて成長していこう」というフェーズなのに、L4の報酬を支払い、L4の目標を設定してしまうと「他のメンバーのお手本になってください」という期待がなされてしまいます。
人間と人間ですから、マネージャー視点だと、ついつい「この人にもっと期待したい」「この人ならもっとできるはずだ」と思ってしまいます。一方で、本人にとっては、過度な期待が続くとプレッシャーばかりが積もってしまいます。
後から期待水準を下げるには、人事面談を設けて「あなたのスキルは当初の期待ほど高くありませんでした」「あなたの給与を大幅に下げます」「これから鍛え直しましょう」と話し合わなければなりません。関係者全員にとって精神的に負担の大きい会話になります。その状況からやり直せるのは、10人のうち1人にも満たないでしょう。相当なメンタルのタフネスがなければリカバリーは困難となります。
最初の期待水準を下げておいて、入社後にステップアップしていくほうが圧倒的に簡単です。