『Works Report 2025|報告書「令和の転換点」』
Highlights & Notes
ポイントは、日本は労働供給量という点で、既にゼロサ ム・ゲームであり、他から奪わないと人材を確保できない ということだ。地域のとある会社で人手を確保できたとい うことは、他の会社では確保ができなかったということを 意味する。人が一層活躍できる環境を作らずして、単に 取り合いをしていても社会全体の解決にはならない。
以上をふまえれば、高齢化の進捗によって、以下の変 化が起こっている可能性が指摘できる。 ・ 高齢化によって対人サービスを中心とする労働集約的 なサービスへの消費支出の割合が増加する。 ・また、高齢化によって1 世帯あたり人員が減る。これに より平均世帯あたり消費額は減少するが、それ以上に 世帯数が増加する。 ・このため、消費総額は減少しない。 同時に、高齢化によって1 世帯あたり人員が減り世帯 数が増える状況が、生活維持サービスに関する経済活動 の稠密性を低下させる可能性が指摘できる。1 世帯に10 人が住んでいる家と1 世帯に1 人が住んでいる家のどちら にも、同じ水道管が必要であり、その整備・点検・復旧 等々に係るコストはほぼ同一(少なくとも10 倍にはならな い)であるためだ。訪問介護等でも同様で、例えば同一 世帯に2 名の介護が必要な方がいればその間の移動時 間はかからない。 高齢化が進み、また人口減少に伴い過疎化が進むな かで、「人が1時間働いた際に何人の生活を支えられるか」 に押し下げ圧力がかかり、1 人の生活を支えるための労 働量が多くなっていく。
3.「教育訓練投資の回収問題」: “ 育てる ” ことの合理性の低下 高齢人口比率増により、稀少になる現役世代に対して企業同士の獲得競争が激化。大手企業も新卒採用だけで は採用ニーズを充足することが難しくなり、中途採用が増加。外部労働市場が量的(募集人数)・質的(募集する職 種のバリエーション)に拡大し、働き手の転職のインセンティブが高まる。 この結果として、質的な人員充足のための手段としても中長期的な育成よりも即戦力の獲得をとる企業が増加し、 企業の人材育成意欲が低下。教育訓練投資を押し下げ、社会全体の質的な人員充足がさらに困難になる。
.「稠密性と効率性」: 1 時間働いて幸せにできる人の数が減る 人口減少と世帯あたり人員数減によって居住の稠密性が低下することで、「除雪機 1 時間あたりの除雪できた世帯 に住む人数」「ドライバー1 人が 1 時間で運べる荷物の数」「訪問介護士 1 人が訪問できる利用者の数」が減少。 働くことができる人が減っていくにもかかわらず、労働者の 1 時間あたりの生産性(= 1 時間働いて幸せにできる人の 数)も減少してしまう。
人口減少と高齢化が進んだときに経済的に最も懸念さ れるのは “ 集積の経済の喪失 ”である。小売業を想定す れば、企業が店舗を立地した際、人口密度はその企業 の利益に大きな影響を及ぼす。人口が密集していれば、 企業はより効率的に利益を上げることができる。物流も同 様である。過疎地域が増えて住居が点在することになれ ば、店舗の仕入れや宅配に関して、効率性が大きく損な われてしまう。医療や介護も同様だ。効率性というとドラ イに聞こえるかもしれないが、効率性の低下はすなわち民 間サービスが届かない地域になることを意味するのだ。
奈良県川上村と「かわかみらいふ」が行う移動スーパー も過疎化が進む地域において足りない買い物サービスを 補うものだ。移動スーパーは、地域住民の買い物支援の みを目的としているわけではない。地域の高齢者の見守 りの機能を担うほか、役場の職員である看護師と歯科衛 生士が同乗するなど医療サービスとの接続の役割も担っ ている。そこに隣近所の人が皆集う、ある種のエンターテ イメントとしての機能も果たす。かわかみらいふではパー ト職員として高齢職員を多く雇用しており、元気な高齢者 が多数活躍している。
人口減少が進むなか、生活の利便性が失われていく。 これを補うためには、地域住民の力を活かすための仕組 みづくりが不可欠である。そして、民間サービスの不足を 補う取り組みに加えて重要になるのは、地域のコミュニティ の存在である。地域の生活者へのインタビューを通じてわ かるのは、過疎化が進む地域の人が高齢期に必要なサー ビスも受けられず生活が困窮していくかと言えば、必ずし もそうではないことだ。確かに様々な不便が発生するが、 必要なサービスに頼れなくなることをきっかけに、日々の 生活のなかで健康づくりのための運動に励んだり、地域 住民間との人付き合いを深めたりするなかで、自分自身 で健康や人とのつながりを維持するための習慣を積極的 に取り入れていく
「孤立」の問題に関しても、近隣住民が互いに見守りの 機能を果たすなど地域間で「困りごと」に対処するなかで 自然と解決されていく。過去、経済が豊かになるにつれ て手取り足取りのサービスを提供することがかえって地域 の機能を弱めてきたという側面があったように、提供され るサービスが失われていくと地域の機能の必要性が高まる 契機になる可能性がある。
例えば、介護サービスに関して、 働き手がいなくなりその地域に必要な施設がなくなってい けば、要介護度が高くなったときには近隣の市町村の施 設に入所する。自然と必要なサービスの周りに人が集まる 形での「移動」が、現実に起きていることが住民の方々の 話からはうかがえた。
転換後の社会においては、他地域から人が集まる地域 と人が流出しながらも緩やかに縮小に向かう地域との住 み分けが進むことになる。こうしたなか、縮小に向かう地 域こそが未来の幸せな生活を実現するための方法論を確 立することができるのかもしれない。
「少子化なのに保育士が足りない」とい う話を地方部で聞くことがあるが、その背景には、例え三 世代同居や近隣に親族が居住していても祖父母・女性 が就業しているために以前より孫や子の面倒を見られなく なってきている、という状況があるのかもしれない。つまり、 労働参加率が高まっていく社会においては “ 生活が忙しく 仕事時間が 1 時間増えると、 何の時間がどれだけ減るか(分)※ 3 図表 28 なっていく”。家のことや自由に使える時間が減少するた めに、周りの誰かに助けを求めざるを得ないのだ。
多くの社会人が生活者×労働者となるなかで、人は仕 事とともに生活における役割が増えていく。しかしそれは 単に忙しくなり、そして不幸せになることを意味するわけで はない。求められるからこそ生まれる新たな役割が私たち の生活に無理なく溶け込んだとき、これまでの常識の先に ある新たな地域社会が実現する可能性がある。
公務サービスは、住民の声やニーズに応える最後の 砦であり、民間サービスがなくなった人口減少地域に おいては、唯一頼ることができる存在になりつつある。 しかし、地域の自治体も慢性的な採用難に苦しんでお り、増えない人員に対して需要が高まっている状況の なか限界を迎えつつある公務の現場(道路・橋梁修繕、 水道管メンテナンス、災害対応、福祉、警察・消防 ......)が顕在化している。「公務員と言えばラクな仕事」 という常識があった時代が終わり、今後の持続可能な 地域づくりの焦点はむしろ「いかに行政をラクにするか」 である。
❶失業率から賃上げ達成率へ:コロナ禍の際の日本の 失業率は、直近のリーマンショック時と比較してもほとん ど上昇が見られなかった。今後の日本の労働需給構造に おいては景況感の変動に対して失業率が強く反応するこ とは考えにくい。失業率を政策の達成基準とすることも難 しくなり、社会の状況を把握する別の指標が必要となる。 今後インフレが継続する場合に実質賃金の高低が重要で あり、まずは名目ベースの賃上げがされている労働者を 増やすことが重要となる。ひとりも取り残さないために、 全就業者において前年と比較して所得が増加した者の割 合=「賃上げ達成率」が社会課題を把握するための指標 となる。
❷ GDPから1 時間あたりGDP:高齢人口割合が増加 するために、就業者に占める高齢者の割合もさらに増進 し、高齢就業者は労働時間が短いために就業者 1 人あた りの労働時間に押し下げ効果が働く。このため、労働投 入量(全就業者の労働時間の合計)は伸びず、結果とし て潜在成長率も高まりづらい。人口動態的に今後の日本 は GDP の高低においては著しく不利である。1 人あたり GDPも同様であり、高齢人口割合が高まれば押し下げら れる。ただし、下がってはいけないのは 1 時間あたりGDP (狭義の労働生産性)である。働き手でもある生活者が増 えるにあたって、同じ時間で多く稼ぐことは、生活を豊か にするだけでなく、生み出された自由時間によって地域コ ミュニティの活性化や人と人との関わり合いを生む。
しかし、3ステージ 人生における「引退」という期間は「仕事」を完全に切り離 さないことによって、より豊かになることがわかってきた。 「引退」の期間が「仕事」と組み合わさることによって、人 はより多くの人と接し、より自分の存在がかけがえのない ものだと感じることが増え、より幸せになれる。人生のアク ティビティとして「仕事」を再考するとき、“ サービス付き高 齢者住宅 ”ならぬ “ 仕事付き高齢者住宅(仕高住)※ 1 ”な どのアイデアが生まれる余地がある。
“ 行政の 仕事 ”と“ 行政の仕事ではないこと”を分けることにエネル ギーを使うのではなく、いかに地域で必要な仕事に関心 を持ち参画する人を増やせるのかに知恵を使うべきだ。
③就職・転職斡旋と職業能力開発の一体的支援:ハロー ワーク・民間転職支援サービスともに、就転職の支援と 職業能力開発の支援は窓口が異なっている。就業者 1 人の職業人生の充実を考えたときに、転職はあくまでひと つの手段に過ぎず、転職と職業能力開発はそのバリエー ションに過ぎない。また、転職に際して知見・経験が不 足しているなど、質的なミスマッチの問題も大きく、職業 能力開発が転職の前段階に必要となるケースも多い。就 転職と職業能力開発を一体的に支援する機能をハロー ワーク等に付与する。
エッセンシャルサービスや公務サービスの持続が難しくなることは、今現場で起こっている働き手不足 の問題が「生活が難しくなり、仕事どころではなくなる」という点において“ 私たち全員の問題 ”であること を意味しています。どんな仕事をしていても、私たちは誰かの労働がなければゴミひとつ捨てることがで きないからです。
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