『Learning Design 2025年09月号|就職氷河期世代の成長支援』
大切なのは、自身を顧みる機会の提供と対話によるアウトプット/Learning Design/2025年9-10月号/Learning Design Members
Highlights & Notes
そして“これから”を歩む支援は、スキルやナレッジ習得を目的としたOff-JTと、培ってきた経験やスキルの可動域を広げる職域開発に大別できる。Off-JTは、今後の業務やキャリア実現に必要となる学習機会を提供する。好評なのが、AI活用等のデジタルスキルや社内システムの使い方などの学習コンテンツを提供する研修プログラムだ。
「ポストオフや異動によって役割が変更になり、使用するデジタルツールが変わることもあるため、スムーズに業務を遂行してもらえるよう支援しています。管理職のころは申請の承認など、部下があらかじめ作成したものを確認すればよかったのですが、ポストオフ後は自身で起票する必要も出てきます。こうした操作につまずいて、過去の経験による知見を活かせずに自信をなくしてしまってはもったいないので、職務や役割の違いから、習得機会を逃していたスキルを補う内容になっています」
社内システムの使い方って、地味だけど実効性とインパクト大きいよな
目玉は少人数のグループワークだ。期間中の昼休みに1時間、5人1組で4回ほど集まり、自身の10年後、20年後の理想を語り合い、アクションプランの作成を目標に据える。吉井氏はゼミを運営し、対話の重要性に改めて気づかされたという。
「初回の時点では、ワークシートも白紙に近い状態で、今後のキャリアの展望について明確なイメージが浮かばないという人も見られました。でも他の人の話を聞くと刺激になって、自分自身のことを考えるヒントになるのです。そういえば、自分はこんなことが好きだった、自分が仕事で熱くなるのはこういう瞬間だ、というように」
さらに3カ月という期間を設けることで、キャリアへの関心が持続的になる。
「期間中に家族と話すなど、周りの人と言葉を交わすことで、徐々に未来へのビジョンが輪郭を帯びてくるようです。終了時には初回と比べ、具体的な将来像を描けた人が何人もいました。自分にとって望ましい生き方や在り方がないわけではなく、言葉にする機会がなかったために、想いや考えが埋もれていただけなんだと思いましたね」
一度立ち止まり、これまでを振り返り未来について考える機会をしっかり持つこと。そして、仲間や家族との対話を重ね、自身の想いをアウトプットすること。そのような機会を持つことが、自律的なキャリア形成においては大切だということだろう。ゼミへの参加をきっかけにボランティアに挑戦したり、資格取得に向け動き始めたりする人も出ているという。
家族との対話というのが見落とされがちだけど本人にとってのインパクトは大きいんだろうな
“普通”だから役になりきれる居心地がいい役者でありたい/Learning Design/2025年9-10月号/Learning Design Members
娘が小さいころは時間に追われて、もっと芝居に集中したいとイライラすることもありました。でも、夕食を作りながらセリフを覚え、愛犬の世話をしながら役を考える。それが私なんだと思えるようになってから、すごく楽になりましたね。
欠かせないのは「誠実さ」人材を最大の経営資源として世のため人のために貢献を/Learning Design/2025年9-10月号/Learning Design Members
Highlights & Notes
―― チームワークを高めるためには、それをうまく機能させるリーダーの才覚も求められます。中村会長は、リーダーとしてのご自分をどう見ていらっしゃいますか。
中村
自分がリーダータイプだとは思わないし、他人を引っ張っていくような柄でもありませんが、初めて自分の班を持ったときから、部下や後輩にはすごく恵まれていました。スタッフが優秀だから、リーダーが私でも、チームは回っていたのでしょう。そのなかで1つ、心掛けていたのは「最後の責任」ですね。仕事は分業で進めても、何かあったら必ず自分がすべてを引き受けて対応する。要は「逃げない」ということです。数人の班のグループ長であろうが、組織全体のトップであろうが、その心構えに変わりはありません。
人事の意思決定に役立つ5つの思考法/Learning Design/2025年9-10月号/Learning Design Members
社会と企業に今なお続く経済的影響とは/Learning Design/2025年9-10月号/Learning Design Members
Highlights & Notes
雇用が不安定だと、収入も低くなりがちだ。もちろん低収入はそれ自体が大きな問題だが、婚姻のしにくさにつながっていることも見逃せない。
「20~30代の男性は、年収が低いほど既婚率が低い傾向があります。年収300~400万円の既婚率は17%で低いですが、年収300万円未満になると9%とさらに落ちてしまいます。国税庁の調査によると、年収300万円未満の男性は、2010年の段階で全男性納税者の23.4%。この割合は97年以降増え続けていて、就職氷河期世代と重なります」
永濱氏は、「これを放置したことで取返しのつかないことが起きた」と指摘する。
「婚姻率の低下は少子化の原因の1つです。就職氷河期世代は第二次ベビーブーム世代と重なり、普通なら第三次ベビーブームが起きてもおかしくなかったのですが、家庭を持てるほどの雇用所得環境が得られなかったせいで、次のベビーブームは起きませんでした。この社会的損失は、出生率が多少改善したとしても取り戻せません。現在の労働力不足や社会保障への不安も、就職氷河期世代を早めに支援していたら、今より状況はマシだったでしょう。その点でも政策当局の失策だったと思います」
非正規労働が長くスキルを磨く機会が少なかった人に対して、永濱氏は「事務系にこだわる必要はない」と助言する。
「事務系の人気が高いですが、今後は生成AIの登場で事務の仕事は減り、収入も上がりづらくなります。製造現場もロボティクスが進むとはいえ、現状では人が足りず、TSMCの熊本工場周辺では寮・食事完備で時給3,000円の求人も出ています。単身者なら地方に移住もしやすいでしょう。事務系よりも工場で機械を扱うスキルを磨いた方が、キャリアが拓けるのではないでしょうか。
タクシーの運転手もお勧めです。事務系で未経験のまま正社員になれば、年下の社員が上司になるケースも多いはずです。一方、タクシーなら少なくても乗車中は職場の人間関係に悩まされなくて済むかもしれません。また、年齢のハンデがなく、今からでも年収1,000万円を目指せることも魅力です」
まずは就職氷河期世代を正しく捉えよ求められるのは「働く」より「生きる」支援/Learning Design/2025年9-10月号/Learning Design Members
Highlights & Notes
「就職氷河期という言葉がメディアで初めて使われたのは92年の『就職ジャーナル』でした。それからこの言葉が注目を集め始め、94年には流行語大賞の部門賞を取りました。ただ、広く普及したがゆえに、その後、リーマンショックやコロナショックでも『就職氷河期の再来』と安易に使われるケースが少なくありませんでした。
就職氷河期のもともとの意味は、氷河期でナウマンゾウが絶滅したような劇的な環境変化や構造変化を指します。景気の変動による短期的な変化に就職氷河期という言葉を使うのは、概念の解釈の矮小化につながる恐れがあります」
就職氷河期世代をめぐる誤解の1つに、非正規雇用の問題がある。非正規雇用問題については、「就職氷河期世代が苦しんだのは、小泉改革で派遣法が改正されたから」というストーリーで語られがちだが、常見氏は「時系列をもう少し精緻に見ないといけない」と指摘する。
「小泉政権で派遣法が改正されたのは04年で、就職氷河期の末期でした。少なくても就職氷河期前期の世代を小泉改革の犠牲者のように語るのは間違いです。また、非正規雇用へのシフトは95年の『新時代の日本的経営』以降、既定路線化されていて、おそらくどの政権でも流れは変わらなかったでしょう」
誤解があるのは時系列だけではない。非正規雇用問題はエピソードベースで語られることが多く、それが認識を歪めた面がある。
「確かに非正規雇用は拡大しました。ただ、その半分は主婦のパートです。また、学生のアルバイトもカウントされているため、『非正規雇用がウン千万人』というデータは疑って見ないといけません。また、非正規雇用が増えた主な領域は飲食と流通ですが、これらの領域の現場はもともと正社員は少ないのです。つまり必ずしも正社員が非正規雇用に置き換わったわけではないのです。現在、外国人労働者について『日本人の職を奪った』という主張がされるようになりましたが、外国人労働者は日本人がやらなくなった領域の仕事を担っているのです。これとよく似た誤解が、正社員と非正規雇用をめぐる関係においても起きています。正社員になれずに不本意に非正規雇用になり、苦しい生活を強いられている人がいることは事実であり、適切な対策は必要です。ただ、それをマジョリティだと誤認すると、的外れな対策になりかねません」
常見氏が就職氷河期世代に関する誤解をあえて指摘するのには理由がある。政府や自治体が様々な支援策を打ち出しているが、その効果について限界を感じているからだ。
ある県で行われた就職氷河期世代と求人企業のマッチング事業は、多くの予算を投じて進められた。しかし、実際にマッチングできた人は、多い年で10人前後、少ない年ではわずか1人だったという。
「マッチング事業が低調な理由として私は2つの仮説を持っています。1つは、すでに解決しているから。就職氷河期世代で非正規雇用で働く人のうち正社員を希望していた人はすでに職を見つけて働いており、正社員になりたいけれど非正規で働いている人というのは、すでに少数である可能性があります。だとすれば、不本意な非正規雇用がマジョリティであるという前提の対策は見直す必要があるでしょう」
もう1つの仮説は、就職氷河期世代で不本意ながら非正規雇用で働く人は今も一定数いるものの、心理的・物理的ハードルが高くて制度を利用しないというものだ。
「ハードルはいろいろあります。まず物理的には、社会やコミュニティーから断絶していて支援の情報が届いていない恐れがあります。また、生活のために複数の仕事を掛け持ちしていて、面接に行く時間がないケースもあるでしょう。時間だけの問題ではなく、非正規も含めて人件費が高騰しているので、大手の飲食や流通でバイトを掛け持ちすると、それなりに稼げるという現実もあります。心理的ハードルでは、非正規雇用が長くなって『正社員になるのが怖い』という人もいます。そのため労働政策研究・研修機構の堀有喜衣氏が指摘したように、正社員と非正社員・無業失業を行き来する『ヨーヨー型キャリア』になってしまうのです」
後者の仮説の場合、ハードルを一つひとつ取り除いていけばマッチングが増える可能性はある。ただ、常見氏は「仮説がどちらにしても、『働け』という支援はもう限界。そろそろ『生きろ』という支援にシフトする時期に来ている」と主張する。
「自民党の就職氷河期世代支援政策で2点、評価できる部分がありました。1つは、住む環境についてのサポート。もう1つは、年金の空白に対してのサポートです。それらが本当に有効な政策なのか、また実現可能性があるのかは別の話ですが、働くことだけでなく生きることの支援に踏み込んだことは評価しています」
「もはやピカピカの人材が毎年入ってくる時代ではない。お金を積んでハイスペック人材を採用する流れがある一方で、今後はハイスペックでも若くもない普通の人で組織を回していく発想も求められるでしょう。そのときに必要なのは“目利きの力”です。ギターの世界では、新しい正規品の人気がある一方で、権利に関する法律の緩い時代に日本でつくられた海外ブランドのレプリカが“ジャパン・ヴィンテージ”として高値で取引されています。古いゆえにネックが安定して、安心して弾けるからです。人材も同じ。スキルや経験に注目すれば、ピカピカではなくても自社に合った40~50代を採用できるし、そういった人材で回るように組織をデザインしなければいけないと思います」
就職氷河期世代がキャリア自律に向かううえで乗り越えなくてはいけないハードルが1つある。日本経済が壊れゆく様を渦中で見て自らも苦境を味わった就職氷河期世代は、とかく悲観的に物事を捉えがちだ。そのマインドを克服しなければ、キャリアに明るい展望を描くことすらままならない。
「就職氷河期世代が元気の出にくい環境を生きてきたことは事実です。でも、今は悲観するような状況ではありません。今、人材ビジネスでもっとも熱いのは40~50代の転職です。35歳転職限界説はとっくに崩れていて、雇用が延長するなかで40代はむしろ若手扱いされています。そのなかで必要なのは働き続ける勇気でしょう。年収は多少下がるかもしれませんが、健康に気をつけて生活を防衛しつつ現役を続ければ、これまでの負の部分は取り返せます。早めに定年を迎えざるを得なかった上の世代より、チャンスは広がっていると考えた方がいい」
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