「おもしろくてダメになる」ものづくり教育コンテンツ入門①
ソダクエ1 に学ぶ「のめり込む自分」のつくり方(前編)
https://www.youtube.com/watch?v=BthocGbJq3M&feature=youtu.be&t=20973
※理科教育 Advent Calendar 2021に合わせて加筆修正しました
1. はじめに
このページは失敗を越えて「のめり込む」人材の育成と,そのための「おもしろくて,ダメになる」ものづくり教育,STEAM教育コンテンツのつくりかたを考えるページです。過度な期待はしないでください。
推奨文献・資料
古い文献で表現がやや難解なので,コンセプトの中核が示されている1,2章と事例が示されている8章の日本語訳を用意しました。 2. 「おもしろくて,ダメになる」とは
『おもしろくて,ダメになる』とはなんなのか?
『おもしろくて,ためになる』ではないのか?
そんな疑問,お叱り,説教の声が聞こえてきそうです(あっ,石を投げるのはカンベンしてください)。
世の中に「おもしろくて,ためになる」すばらしい教育コンテンツは,すでに数え切れないほどあります。
私もこれまでに「おもしろくて,ためになる」をめざし教育コンテンツをつくっては実践してきました(これとか,これとか,このあたり)。 ただ,いろいろあって(後述),「おもしろくて,ためになる」コンテンツは他の世のすばらしい方々におまかせしても良いのではと考えるようになり,私のような人間が本当にすべきこと,やりたいことは, 「ものづくりの楽しさにのめり込めるようになる」教育コンテンツをつくることだと気が付きました。
おもしろければ,のめり込んでおのずと学ぶ。
だからこそ,はじめは技術の楽しさや驚きを伝えることが大切。
これは柔術の師匠の言葉です。10年以上前に私が指導者として子ども教室をはじめたときに言われました。 この言葉は技術教育全般に通じます。
「おもしろくて,ためになる」だけでなく,自発的にその先まで進んでみたくなる。
それが「のめり込む」ということです。
ただし,どんなにためになることでも,やり過ぎればダメになってしまうものです。
薬も過ぎれば毒となります。
「ものづくり,おもしろい!」
で留まっているうちは「ためになる」で済んでいるのですが,
症状が進行すると
「ご飯の時間だけど……ものづくり,おもしろい!」
「背中がむれちまって妙にかゆい。おフロに入らなきゃだけど……ものづくり,おもしろい!」
「そろそろ眠いけど……ものづくり,おもしろい!」
「他のこともしなくちゃいけないけど……ものづくり,おもしろい!
「完成した!おかげで今夜はよく眠れそうだぜ。」
「新しいものをつくるの,楽しい!やめられないッッ!!」
「ものづくりやり過ぎてアレをやってないな……。おえら方に見つかったら大変だ。」
「いったいおれ どうな て
かゆ うま」
というところまで行き着きます。
「おもしろくてのめり込んでいった結果,『ためになる』を通り越して『ダメに成れ果ててしまう』」
悲しいけれどこれ,人のサガなんですよね。
んなぁ~。
3. なぜ「おもしろくて,ダメになる」必要があるのか
ダメになるとわかっているのならば,『ためになる』ところで留めるのが教員の役割なのではとお叱りが聞こえてきそうです。しかし,私の知る限り,本当にすごい人達は『ためになる』を通り越していました。
たとえば
たまにガスマスクをつけてて,落下ブロックで潰す○の数で点数を競うパズルゲームをつくっていた高校の先輩
いつもロボットのことを考えてて,お酒が入ると言語がロボットの動作音になる大学の先輩
どちらも当時から超優秀で凄みがあり尊敬している先輩ですが,『ためになる』をとっくに通り越している感がありました。
お二方とも現在は他の人には真似できない人類の最先端といえるお仕事をしています。
2040年に向けた高等教育のグランドデザインで言われるように,高等教育に多様で卓越した新しい「知」を生み社会と結びつけることを真剣に求めるのであれば,このような「のめり込む」人材の育成と,そのための「おもしろくて,ダメになる」教育コンテンツの確立が不可欠になります。 以上の理由から,ものづくり沼に引き込むような求心力を持つ「おもしろくて,ダメになる」教育コンテンツをつくること目指しています。
ただし,「おもしろくて,ダメになる」教育は必ずしも大学教育に向いているとはいえません。大学の多くは社会の求める人材を育てるところだからです。ですので,学校の教育課程の枠組みを越えたものづくり教育の必要性を感じています。
「は…発明家たちは一体どうやってくらしてるんだ…!?」
「さあな。どうしてんだろうな。
ただな,これだけは分かるぜ
そんなものじゃ,あこがれは止められねぇんだ。」
4. なぜソダクエなのか
「のめり込めるようになる」ための教育コンテンツを考えるとき,セルフメンタリングがもっとも重要な課題となります。自発的に学習するメンタリティを育むためには,楽しみながら成功体験を積み重ねることが不可欠です。
ものづくり教育を10年やって実感したことは「ものづくり初学者にとって,失敗はとてもツラい」ということです(最初から気がつけ)。ものづくりには試行錯誤,トライ&エラーがつきものです。初学者はこの失敗(錯誤/エラー)をとてつもなくツラいと感じます。もちろんものづくり熟練者も失敗はツラく感じますが,成功したときの超快感☆彡も知っているので乗り越えやすいです。ものづくり初学者のツラい体験をいかに処理するかが問題になります。
この問題にうまく対処しているのがゲームです。ゲームでは適切にレベリングされたイベントをクリアし続けることより,小さい成功体験を積み重ねてプレイヤーが学習(順応)し,自然と難易度が高いイベントに対応できるようになります。今,若者に人気のゲーム実況を教材にすれば,ものづくり教育にセルフメンタリングをモデル化しやすいと考たのがゲーム実況に着目した理由です。
ものづくり初心者のセルフメンタリングのロールモデルになる実況の条件としては,プレイヤーのスキルが高すぎず,それでいて,それなりの難易度の課題に取り組んでいることが挙げられます。
この条件を満たすものとして,数あるゲーム実況の中から下記の動画を教材として選定しました。
この動画では,プレーヤの曽田すかい氏(ソダさん)が初見ノーヒントでドラクエ1をノンストップでクリアしてます(11時間くらい)。 まずプレイヤーの特徴です。
ドラクエはしっている。11はクリア済み
マニュアル戦闘のドラクエは未プレイ
ロトシリーズに関する知識はない
次にゲームとなるドラクエ1の特徴です。
初期に発売されたロープレのため導線が少なく,初見殺しで難易度が高い部分もある
ただしリメイク版のため難易度が高い部分,面倒な部分は修正され,取り組みやすくなっている
普通に考えれば,この条件でノーヒントでプレイ開始からクリアするまで食事もとらず休憩もそこそにぶっ続けで配信し続けることは,ほぼ不可能です。10時間はかかるので,たいていは疲れてやめるはずです。もし,クリアできるとしたら,よほど根気強いか,またはセルフメンタリングが優れているかのどちらかでしょう。
後者でした。このプレイヤーはプレイスキルは高くありませんが,自分上手とも言える楽しさを自分で育てるスキルに長けていて,自分をうまく盛り上げながらプレイを続けています。
この自分上手を燃料にしたトライ&エラーを繰り返しについて,次章から具体的な事例を紹介します。
(つづく)
関連資料:
関連研究:
山崎 洋一, “のめり込むものづくり教育のためのゲーム実況をモデルとした失敗の学習サイクル,” ITを活用した教育研究シンポジウム2020, C-06, pp.75-76, 2021.3
宇田悠佑, 山崎洋一, 杉村博一, 色正男, “STEAM'S を活用したロールプレイング型ロボット教育コンテンツの開発 ,” ITを活用した教育研究シンポジウム2020, C-05, pp.71-73, 2021.3
山崎 洋一, “ オンライン学習時の孤独感を解消するソーシャルVRを活用した共在空間「スマイルクラス」,” ITを活用した教育研究シンポジウム2020, B-05, pp.53-54, 2021.3
山崎洋一, "超スマート社会のためのIoT・ロボット技術を包括した教育コンテンツ," ITを活用した教育研究シンポジウム2018, 201-1-5, 2019.3
山崎洋一,元木 誠,"Wiiリモコンによる身体動作を用いたロボット制御教育と学習支援",平成23 年電気学会電子・情報・システム部門大会,CD-ROM version, pp.531-532, 2011.9
https://gyazo.com/71c7de59f100448c29cdb7f29fbd171b