模倣におけるブローカ野の役割
PET、fMRI、MEG等を使った神経画像法による模倣の神経メカニズムの研究
:Cortical mechanisms of human imitation (Iacoboni et al., 1999)
指の上下運動をビデオで提示してそれを模倣させる条件と,静止した手の画像上に動かすべき指を指示して運動させる条件とを比較
ブローカ野の活動が模倣条件で高くなることを見出した
Iacoboniらはこの結果を,サルにおけるブローカ野ホモログ(相同)であるF5がミラーニューロンを含むということ(下記)と結び付け、ブローカ野が模倣の中枢であると主張した
その後、この仮説を支持する研究が多く発表された
しかし、この実験では指の運動をビデオで提示してはいるが、被験者は指の上下運動のタイミングを抽出しさえすれば十分であり、模倣の特徴を十全に捉えた課題であったか疑問である。
実際、模倣対象となる運動のパターンを増やした実験では、ブローカ野は運動タイミングのコントロールに関与するが、模倣そのものには関与しないという結果が得られた(Is Broca's area crucial for imitation?)
また、神経心理学研究の結果と一致して、模倣運動において左頭頂葉の賦活を報告する研究は多い。
脳機能画像法データのメタ分析によっても模倣による脳賦活は下前頭回ではなく頭頂葉に集中することが明らかにされている(Is the mirror neuron system involved in imitation? A short review and meta-analysis)
ミラーニューロンが存在するサルのF5とヒトのブローカ野がホモログであるという仮説は,模倣と直接関係付けるには証拠が弱い
少なくともサルには自発的に模倣することは見られない(How do apes ape?)
解剖学的に異説がある(Orofacial somatomotor responses in the macaque monkey homologue of Broca's area)
サルのミラーニューロンのような性質はヒトの神経画像法データでは再現性に乏しいこともメタ分析で指摘されている(Mirror neurons in humans: consisting or confounding evidence?)
以上より、ミラーニューロン的性質を持った皮質領域の存在をもって模倣の神経メカニズムを単純に説明することは難しいと思われる
ミラーニューロン仮説で想定される様な,他者の運動の視覚像を観察者の運動へ変換する感覚運動(sensorimotor)仮説では,どうやって運動視覚像を自己の運動指令に変換するのかという難問を解かねばらない #感覚運動仮説
一方、他者の運動視覚像が運動意図を惹起し、観察者に同じ運動を導くとする観念運動(ideomotor)仮説ではそのような難問を解く必要もなく、また様々な実験観察を上手く説明できるとされている(Movements, actions and tool-use actions: an ideomotor approach to imitation) #観念運動仮説
出典:https://bsd.neuroinf.jp/wiki/模倣