明確性要件
精白米または無洗米の製造装置事件
知財高裁 平成29年9月21日判決言渡
平成28年(行ケ)第10236号 審決取消請求事件
<事件の概要>
【請求項1】(本件発明1)
「 外から順に,表皮(1),果皮(2),種皮(3),糊粉細胞層(4)と,澱粉を
含まず食味上もよくない黄茶色の物質の層により表層部が構成され,該表層部の内
側は,前記糊粉細胞層(4)に接して,一段深層に位置する薄黄色の一層の亜糊粉
細胞層(5)と,該亜糊粉細胞層(5)の更に深層の,純白色の澱粉細胞層(6)
により構成された玄米粒において,前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊
粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で,搗精により糊粉細胞層(4)までを除
去し,該糊粉細胞層(4)と澱粉細胞層(6)の間に位置する亜糊粉細胞層(5)
を外面に残して,該一層の,マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や食物繊維や
蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ,前記精白米には,
全米粒の内,『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り,残された
基底部である胚盤(9)』,または『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)
』が残った米粒の合計数が,全体の50%以上を占めるように搗精され,前記搗精
により亜糊粉細胞層(5)を表面に露出させた白米を,該亜糊粉細胞層(5)が表
面に現れた時の白度37前後に仕上げ,更に糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が
破られ,その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で白米の表面に付着する『肌
ヌカ』を,無洗米機により分離除去する無洗米処理を行うことを特徴とする旨み成
分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置であって,
全精白行程の終末寄りから少なくとも3分の2以上の行程に摩擦式精米機を用い,
前記摩擦式精米機の精白除糠網筒の内面をほぼ滑面状となし,
且つ精白ロールの回転数を毎分900回以上の高速回転とすること,及び,無洗
米機を備えたことを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置。」
【請求項2】(本件発明2)
「 外から順に,表皮(1),果皮(2),種皮(3),糊粉細胞層(4)と,澱粉を
含まず食味上もよくない黄茶色の物質の層により表層部が構成され,該表層部の内
側は,前記糊粉細胞層(4)に接して,一段深層に位置する薄黄色の一層の亜糊粉
細胞層(5)と,該亜糊粉細胞層(5)の更に深層の,純白色の澱粉細胞層(6)
により構成された玄米粒において,前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊
粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で,搗精により糊粉細胞層(4)までを除
去し,該糊粉細胞層(4)と澱粉細胞層(6)の間に位置する亜糊粉細胞層(5)
を外面に残して,該一層の,マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や食物繊維や
蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ,前記精白米には,
全米粒の内,『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り,残された
基底部である胚盤(9)』,または『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)
』が残った米粒の合計数が,全体の50%以上を占めるように搗精され,前記搗精
により亜糊粉細胞層(5)を表面に露出させた白米を,該亜糊粉細胞層(5)が表
面に現れた時の白度37前後に仕上げ,更に糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が
破られ,その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で白米の表面に付着する『肌
ヌカ』を,無洗米機により分離除去する無洗米処理を行うことを特徴とする旨み成
分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置であって,
全精白行程を,一本の精白ロールで済ます1回通過式の単機型の1回通過式精米
機を用い,前記精白ロールには,円筒状の胴体(31)の外面に縦走する2本の突
条(32,32’)が,始点(34)と終点(35)の中ほどの,アールを有する
曲点(33)にて,167度前後の角度で回転方向に対して逆への字状に曲がり,
かつ突条(32,32’)の始点(34)と終点(35)を結ぶ線が,該精白ロー
ルの軸線方向と平行になっている均圧型の精白ロールとすること,及び,無洗米機
を備えたことを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置。」
につき、明確性要件違反として無効審判を請求したところ、
特許庁では、明確性要件を満たすとして、無効不成立の審決がなされた。
これに対し、審決取消請求がされた。
<裁判所の判断>
「特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けよう
とする発明が明確でなければならない旨規定する。この趣旨は,特許請求の範囲に
記載された発明が明確でない場合には,特許の付与された発明の技術的範囲が不明
確となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るため,そのような不都合
な結果を防止することにある。そして,特許を受けようとする発明が明確であるか
否かは,特許請求の範囲の記載のみならず,願書に添付した明細書の記載及び図面
を考慮し,また,当業者の出願時における技術常識を基礎として,特許請求の範囲
の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点か
ら判断されるべきである。
・・・
本件発明1は,無洗米の製造装置の発明であるが,このような物の発明にあって
は,特許請求の範囲において,当該物の構造又は特性を明記して,直接物を特定す
ることが原則であるところ(最高裁判所平成27年6月5日第二小法廷判決・民集
69巻4号904頁参照),上記のとおり,本件発明1は,物の構造又は特性から当
該物を特定することができず,本件明細書の記載や技術常識を考慮しても,当該物
を特定することができないから,特許を受けようとする発明が明確であるというこ
とはできない。
・・・
以上によると,本件発明2は,物の構造又は特性から当該物を特定することがで
きず,本件明細書の記載や技術常識を考慮しても,当該物を特定することができな
いから,特許を受けようとする発明が明確であるというということはできない。
・・・
被告は,発明特定事項として,作用,機能,性質,特性,方法,用途そ
の他の様々な表現方式を用いることができるので,仮に特許請求の範囲に精米方法
の製造方法,装置の使用方法や無洗米化方法の記載があるからといって当然に発明
特定事項の記載が不明確になるものではない旨主張する。
確かに,発明特定事項として,様々な表現方式を用いることは許容されるが,特
許法36条6項2号の明確性要件を欠く場合,特許を受けることはできないとされ
ることに変わりはない。」