『正義と微笑』
学問なんて、覚えると同時に忘れてしまってもいいものなんだ。けれども、全部忘れてしまっても、その勉強の訓練の底に一つかみの砂金が残っているものだ。これだ。これが貴いのだ。
この文がこの小説を読むきっかけだったが、あまり本筋には関わってこないあんも.icon
なんらかの強い主張をする小説ではないのだけど
遅起きしたり、日付が歯抜けになったりしているのがそれっぽいあんも.icon
青空文庫が縦書き表示ができるようになっていて読みやすかった 横書きで読まれることを想定した文章なら横書きでも読みやすいのかもしれない うす曇り。烈風なり。運命的な日である。生涯、忘れ得べからざる日である。一高の発表を見に行った。落ちていた。胃と腸が、ふっと消えたような感じ。体内が、空っぽになった感じ。残念、という感じではない。ただ、ホロリとした。進が、ふびんだった。でも、落ちて当然のような気もした。
家の中で、お母さんや、兄さん、姉さんたちに甘やかされ、お利巧者だとほめられて、たいへん偉いような気がして、一歩そとへ出ると、たちまちひどい目に逢ってしまう。みじめなものだ。有頂天の直後に、かならずどん底の失意に襲われるのは、これは、どうやら僕の宿命らしい。世の中というものは、どうしてこんなにケチくさく、お互いに不必要な敵意に燃えているのか、いやになってしまう。
ケチな、ケチな小市民根性。彼等のその醜いケチな根性が、どんなに僕たちの伸び伸びした生活をむざんに傷つけ、興覚めさせている事か。しかも自分の流している害毒を反省するどころか、てんで何も気がついていないのだから驚く。馬鹿ほどこわいものがないとは此の事だ。
学校は、学問するところではなくて、くだらない社交に骨折るだけの場所である。きょうもクラスの生徒たちは、少女倶楽部クラブ、少女の友、スター等の雑誌をポケットにつっこんで、ぶらりぶらりと教室にやって来る。学生ほど、今日、無智なものはない。つくづく、いやになってしまう。授業がはじまる迄は、子供のおもちゃの紙飛行機をぶっつけ合ったり、すげえすげえ、とくだらぬ事に驚き合ったり、卑猥な身振りをしたり、それでいて、先生が来ると急にこそこそして、どんなつまらぬ講義でも、いかにも神妙に拝聴しているという始末。そうして学校がすめば、さあきょうは銀座に出るぜ! などと生きかえったみたいに得意になって騒ぎたてる。 けさは、七時半に起きた。六時頃から目が覚めていたのだが、何か心の準備に於て手落ちが無いか、寝床の中で深く静かに考えていた。手落ちといえば全部、手落ちだらけであったが、それだからとて狼狽することもなかった。とにかく、ごまかさなければいいのだ。正直に進んだら、何事もすべて単純に解決して、どこにも困難がない筈だ。ごまかそうとするから、いろいろと、むずかしくなって来るのだ。ごまかさない事。あとは、おまかせするのだ。心にそれ一つの準備さえ出来ていたら、他には何も要らないのだと思った。
取り繕うほうがややこしくなりやすいあんも.icon
何度か読んでおもしろく感じるものに思うあんも.icon