知識創造企業
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より重要なのは、形式言語で言い表すことが難しい「暗黙知(tacit knowledge)」と呼ばれる知識なのだ。それは人間一人ひとりの体験に根ざす個人的な知識(パーソナルナレッジ)であり、信念、ものの見方、価値システムといった無形の要素を含んでいる。
組織的知識創造とは、組織のメンバーが創り出した知識を、組織全体で製品やサービスあるいは業務システムに具現化することである。組織的知識創造が、日本型イノベーションの鍵なのだ。日本企業が、イノベーションを絶え間なく、漸進的、スパイラルに生み出すのを得意としている背景には、実は組織的知識創造の能力がある。
暗黙知(tacit knowledge)は、非常に個人的なもので形式化しにくいので、他人に伝達して共有することは難しい。主観に基づく洞察、直観、勘が、この知識のカテゴリーに含まれる。さらに暗黙知は、個人の行動、経験、理想、価値観、情念などにも深く根ざしている。
日本企業の知識創造の特徴は、煎じ詰めれば、暗黙知から形式知への変換にある。ある個人のきわめて主観的な洞察や勘は、形式知に変換して社内の人たちと共有しない限り、企業にとっては価値がないに等しい。日本企業は、特に製品開発でのこの暗黙知から形式知への変換を得意とする。
第一に、表現しがたいものを表現するために、比喩や象徴が多用される。第二に、知識を広めるためには、個人の知が他人にも共有されなければならない。第三に、新しい知識は曖昧さと冗長性の只中で生まれる。
個人の自発的行動とグループレベルでの相互作用がない限り、組織それ自体では知識を創ることはできない。グループレベルでは、知識が対話、討論、体験共有、観察などによって増幅され、具体的なものに結晶化される。
冗長性は、社員の間に「認識上の共通基盤」を創り、暗黙知の移転を助ける。組織成員は情報を重複共有してこそ、お互いが四苦八苦しながら表現しようとしていることをわかり合える。この情報共有という冗長性によって、新しい形式知が組織全体に広まり、一人ひとりのものになるのだ。
西洋の認識論には、「知るもの」と「知られるもの」を分ける伝統がある。この伝統は、ルネ・デカルトによって方法論的基礎が固められた。ルネ・デカルトは、主体(知るもの)と客体(知られるもの)、精神と身体、精神と物体という「デカルトの分割」を主張した哲学者である。この章の前半で述べるように、過去二世紀の西洋哲学の歴史は、結局は不成功に終わったが、このルネ・デカルトの二元論を克服しようとする一連の試みと見ることもできる。
主客一体: 日本的思考の最も重要な特徴は、「人間と自然の一体化」とでも名づけることができる。
心身一如: 日本的「知」の伝統のもう一つの特徴は、「全人格」の強調である。それに対して西洋では、知識は一人の人間の発達から切り離されている。日本人にとって知識とは、全人格の一部として獲得された知恵を意味する。間接的・抽象的知識より個人的・身体的な経験を重視するのはこのためである。
自他統一: 西洋で一般的な人間観は、原子的・自立的であり、自己と他者の関係は機械的であるが、日本人は人間集合を有機的生命体と見なす。
経営戦略の科学化でマイケル・ポーターの競争戦略のファイブフォース分析やバリューチェーンが言及されている
エドガー・シャインは次のように論じた。「共有体験が豊富であれば、共有されたものの見方が出て来るはずで、そしてそれが長期にわたって有効であれば、当たり前のこととして意識から抜け落ちてしまうはずである。文化とは、この意味で、グループ体験という学習の成果なのである★83」。彼の定義によれば、文化とは、「あるグループが環境適応と内部統合に関するさまざまな問題処理を学習する過程で発明、発見、開発する基礎的な思考のパターンであり、長い間うまく機能してその有効性を認められ、同じような問題を感知し、考え、感じるときの正しい方法として新しいメンバーに教えられる★84」。
P.F.ドラッカーは、知識社会において、あらゆる組織が直面する最も重要な試練の一つが、自己変革管理のための実務手法の体系的構築であると示唆した。組織は古くなった知識を捨てる覚悟を持たなくてはならず、新しいものの創造を、①すべての活動の絶え間ない改善、②成功例の応用展開、③組織プロセスとしての連続的イノベーションを通じて学習しなければならない。
第一に、知識は情報と違って、「信念」や「コミットメント」に密接にかかわり、ある特定の立場、見方、あるいは意図を反映している。第二に、知識は情報と違って、目的を持つ「行為」にかかわっている。知識は、常にある目的のために存在するのだ。第三に、知識と情報の類似点は、両方とも特定の文脈やある関係においてのみ「意味」を持つことである。
情報は行為によって引き起こされるメッセージの流れであり、メッセージの流れから創られた知識は、情報保持者に信念として定着し、コミットメントと次なる行為を誘発する。
まず、存在論的次元から始めよう。厳密にいえば、知識を創造するのは個人だけである。組織は個人を抜きにして知識を創り出すことはできない。組織の役割は、クリエイティブな個人を助け、知識創造のためのより良い条件を作り出すことだ。したがって、組織的知識創造は、個人によって創り出される知識を組織的に増幅し、組織の知識ネットワークに結晶化するプロセスと理解すべきである。このような現象は、相互に作用し合う人々の集団の中で起こる。そういう相互作用集団は、組織内のヨコの境界やタテの階層、さらには組織間の境界を超えて広がっていく★9
知識が異なる知、特に暗黙知と形式知の社会的相互作用を通じて創造されるという前提に基づけば、四つの知識変換モードが考えられる。すなわち、①個人の暗黙知からグループの暗黙知を創造する「共同化」、②暗黙知から形式知を創造する「表出化」、③個別の形式知から体系的な形式知を創造する「連結化」、④形式知から暗黙知を創造する「内面化」である★21。
自己創出システムと同じように、知識創造組織の自律的な個人やグループは、より高い組織レベルの意図に表明された究極的目標を追求するための自己の任務範囲を自主的に設定する。企業の中で個人が自律的に行動できるような状況を創り出すための強力な手段の一つが、自己組織化(セルフオーガナイジング)チームだ★43。
トップの経営哲学やビジョンがはっきりしないとき、その曖昧さは実行スタッフのレベルで「解釈の多義性」を生み出す。
断崖絶壁の上に立って、なんとかここで生きる道を考えようというときに、初めていい知恵がしぼり出されるものだと思う。
スカンジナビア航空のヤン・カールソンは「トップ層をすげ替え、従業員のやる気を引き出すことは難しくなかったが、過去のやり方の上に築き上げられた巨大なミドルには酷く手こずった」と語る
ミドル・アップダウン・モデルでは、トップはビジョンや夢を描くが、ミドルは第一線社員が理解でき実行に移せるようなもっと具体的なコンセプトを創り出す。ミドルは、トップが創りたいと願っているものと現実世界にあるものとの矛盾を解決しようと努力する。
3Mは多くの点で、GEのトップダウン・マネジメントスタイルの正反対を代表している。3Mの経営原則は、自律性と起業家精神であり、それは以下のような業務指針に翻訳されている。3Mは、ヒエラルキーというコンセプトを否定しようと努めてきた。