余談:記述的定義と解明
規約的定義はベースとなる既存の概念がないという点で明らかに区別できるが、記述的定義と解明の違いはけっこう微妙。
記述的定義の典型例:〈知識〉の古典的定義(正当化された真なる信念、いわゆるJTB)。
解明的定義の典型例:生物学における〈魚類〉の定義。
数学で定義される概念は、原理的にはすべて規約的定義だが、実質としては解明であることも少なくない。
ひとつの大きな違いは、十全性(adequacy)が定義の主な評価基準かどうかという点にある。
記述的定義は、もとの概念の外延と定義による外延ができるだけ一致している(つまり外延的に十全である)必要がある。記述的定義の不適切さを示すために、しばしば反例が持ち出されるのもそのせいである。
たとえば、有名なゲティアケースは、JTBを満たさないが「知識」と言いたくなるケースがあるという話。
解明は、既存の概念をベースにするものの、その外延に定義による概念を完全に一致させる必要はない。より有用で実態に即した概念にできるのであれば、外延が多少変わってもかまわない(その場合、既存の概念のほうが不適切だったということになる)。
たとえば、従来の概念としての〈魚〉にはクジラも含まれていただろうが、生物学的な系統を踏まえて定義しなおされた〈魚類〉にはクジラは含まれない。記述的定義であれば、この定義は十全でない(それゆえ問題がある)ということになるが、解明であれば問題ない。
文献
〈記述的/解明的/規約的〉の区分はGupta (2021)にもとづく。
〈解明〉概念の特徴づけと、解明を行う/評価する際の手順については、Cordes and Siegwart (n.d.)を参照。