脳腸相関 - 腸による性格への影響
井上教授:みなさんの腸内には1000種類くらいの「腸内細菌」がいて、人によって持っているパターンが違うんですけども、その中に脳の活動や神経系に影響を与える菌もいるんです。腸内細菌からの影響は、悪いものだけではなく、たとえば精神を落ち着ける作用を持つ「セロトニン」は90%が腸で作られると言われていますが、その量は腸内細菌の影響で変動します。
腸内環境が悪化して、必要なものが作られなかったり、神経系に不要な刺激ばかり増えたりすると、神経が高ぶってイライラしやすい状況に変化します。睡眠や食欲にもそれは波及し、神経が昂って眠れないと食欲が増して、腸により負担がかかります。逆にしっかり眠れる人は食欲も落ち着き、腸も整う…と脳と腸は相互に影響しあっているんです。
多くの人がストレスで暴飲暴食したり、落ち込むと食欲が落ちたりする経験をしていると思うのですが、これは脳だけが原因ではなく、腸が関わっていることもあるんです。
結論から言うと、腸の状態は、私たちが思っている以上に性格や気分、精神状態に深く影響を与えています。 まだ研究途上の分野ではありますが、腸が「第二の脳」と呼ばれる理由は、この心との密接な繋がりにあります。
この関係性の鍵となるのが**「脳腸相関(のうちょうそうかん)」**という、脳と腸が互いに情報をやり取りする仕組みです。
腸が性格や心に影響を与える具体的な仕組み
腸と脳は、主に以下の3つのルートで常に対話をしています。この対話の内容が、私たちの気分や性格の土台を作っているのです。
1. 幸せホルモン「セロトニン」の9割以上は腸で作られる
セロトニンは、精神を安定させ、幸福感をもたらすことから「幸せホルモン」と呼ばれます。このセロトニンは、脳で作られているイメージが強いかもしれませんが、実にその90%以上が腸内で作られています。
腸内環境が悪化し、悪玉菌が増えると、セロトニンの生成が滞ってしまいます。その結果、不安を感じやすくなったり、気分が落ち込みやすくなったり、イライラしやすくなるなど、ネガティブな精神状態に繋がります。
逆に、腸内環境が整っているとセロトニンが安定して供給され、精神的な落ち着きや、前向きでポジティブな感情を保ちやすくなります。
2. 迷走神経を通じた脳へのダイレクトな情報伝達
脳と腸は**「迷走神経(めいそうしんけい)」**という太い神経で直接結ばれています。これは、脳と腸が情報を送り合うための直通のホットラインのようなものです。
腸内の善玉菌が多いか、悪玉菌が多いかといった情報は、この迷走神経を通じてリアルタイムで脳に伝えられます。
例えば、腸内で炎症が起きたり、悪玉菌が優勢になったりすると、その「不快な情報」が脳に伝わり、漠然とした不安感や気分の落ち込みとして認識されることがあります。
3. 腸内細菌が作り出す物質が脳に影響を与える
腸内にいる約100兆個もの細菌は、私たちが食べたものをエサにして、様々な物質を作り出します。
善玉菌が作り出す**「短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)」**などは、体全体の炎症を抑えるだけでなく、血液に乗って脳にまで届き、脳の機能にも良い影響を与えることが分かっています。
研究レベルでは、特定の腸内細菌の種類が、社交性やストレス耐性に関わっていることも示唆されており、人付き合いが得意か苦手かといった性格的な側面にまで影響を与えている可能性が指摘されています。
「性格」と「気分」への影響
厳密に言えば、生まれ持った気質のような「性格」そのものが腸の状態だけで劇的に変わるわけではありません。しかし、腸内環境は日々の**「気分」や「感情の波」**に大きく影響します。
腸内環境が良い状態 → 気分が安定し、穏やかで前向き。ストレスにも対処しやすくなる。結果として**「明るく、落ち着いた性格」**に見える。
腸内環境が悪い状態 → 不安やイライラを感じやすく、気分が沈みがち。ストレスに弱くなる。結果として**「神経質で、気難しい性格」**に見える。
つまり、心の土台となる部分が腸の状態によって左右されるため、長期的に見れば、それがその人の「性格」として表に出てくるのです。
まとめ
「腹が立つ」「腑に落ちない」といった言葉があるように、昔から人々は経験的に心と腸の繋がりを感じてきました。現代科学は、それが気のせいではなく、セロトニンの生成や神経を介した情報伝達による事実であることを証明しつつあります。
性格のすべてが腸で決まるわけではありませんが、腸内環境を整えること(腸活)は、心を安定させ、よりポジティブな毎日を送るための非常に有効なアプローチと言えるでしょう。