【ss】境界
今日はどこにも行きたくなかった
嘘をついて学校を休むのははじめてのことだった.
「習い事」はほとんど毎日で,辛くはなかったけれどわたしの日常は変わってしまった.
遊びに誘われても断らなければいけなかったり,休み時間も話題が合わなかったりする.
クラス替えがあってから,放課後は誘われなくなった.
「習い事」もずる休みさせてもらった.
先生はお父さんの友達で,優しい.
走るのは嫌いじゃないし,能力が使えるようになるのも楽しい.
それでも,あの子が嫌だった.
話しかけても,どこか遠くを見ているようで目が合わない.
遊びに誘っても,訓練があるからって断られる.
先生には仲良くしてあげてって言われたけど,今日くらいはお休みしよう
うたた寝から目を覚ます
お祭りの太鼓みたいにおなかに響く,それでいて不安を掻き立てる衝撃
家は真っ暗で
お父さんもお母さんも家にいなくて
秘密の通路は消えていて
支部からの着信履歴が1件.
空は橙色に染まっていて
道端に人が倒れていて
街灯はまだ点かない
まだつかない
焦げた香りと土煙.瓦礫の隙間に覗く手足.
見知った指輪から目を背けて
大きく広がる夕焼けの先.
翡翠は夕陽と砕けて
今日はどこかに行ってしまった
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