ニコラ・フラメル
ニコラ・フラメル(Nicolas Flamel, 1330年頃 – 1418年)は、中世フランスの公証人・書記であり、後世「伝説的な錬金術師」として神話化された人物です。実在したことは間違いないですが、彼が「錬金術師」とされたのは死後かなり経ってからであり、実際の生涯と後世の伝説には大きな乖離があります。
1. 歴史的事実
職業:パリで公証人・書記をしていた。裕福な市民であり、多くの慈善活動(教会や病院の建設・寄付)を行った記録が残る。
実在の人物:フラメル自身の日記や遺言、寄進記録など、文献的な裏付けがある。
錬金術師としての活動:生前に「錬金術師」と呼ばれた証拠はなく、彼の著作もほぼ残っていない。
2. 錬金術伝説の成立
16世紀以降に創作:死後約200年後、16世紀にフラメルが「賢者の石(卑金属を金に変える魔法の石)」を作り出し、不老不死となったとする伝説が広まった。
主な根拠:
「フラメルの書」や「象形寓意の書」などが後世に偽作され、彼の著とされた。
妻ペレネルとともに賢者の石を発見し、巨万の富を得た、との逸話。
錬金術書の捏造:彼の名を冠した錬金術書がルネサンス期に出版され、フラメル=伝説の錬金術師というイメージが定着した。
3. 近代以降のフラメル像
小説・映画等での登場:「ハリー・ポッターと賢者の石」など、現代でも錬金術師のアイコンとしてしばしば引用される。
不老不死伝説:18世紀以降、フラメルが今も生きているという都市伝説まで現れる。
4. 伝説の構造と批判
実在の業績との乖離:歴史的にはただの慈善家だが、錬金術師伝説は後世のファンタジーの産物。
なぜ伝説が生まれたか:
墓が暴かれたとき遺体が見つからなかったという逸話(実際には盗掘や移葬の可能性)。
富裕であったことや謎めいた慈善活動が「金を作る能力があった」という憶測を生んだ。
5. 複数の解釈可能性
歴史的事実を重視する立場:あくまで中世パリの名士であって、錬金術とは無縁。
神秘主義的・象徴的な解釈:フラメル伝説はヨーロッパにおける錬金術の象徴化、社会的夢想の投影。
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