思想としてのCSCL - 状況的認知・構成主義・認知工学
ポイントは、第一にCSCLは「学習の資源(resource for learning)」として、メディアとしてコンピュータ、或いはコンピュータ・ネットワークを使うということ。そうして組織される、構造化される学びは、「共同学習」という形態をとること。ここでは、それだけを押さえておきたいと思います。 ここでは、なぜ「Collaborate(共同する)」のかということを考えてみたいと思います。「共同する」ことの「意味」、それはCSCLの最大の特徴であるにも関わらず、なかなか省みられることが少なかったことです。これに答えるためには、「学習理論」という少し難しい領域に踏み込まなくてはなりません。しかし、ただでさえ難解な「学習理論」を詳述するのは、筆者の力量を超えていますので、それは各人の「読み」に任せるとして、ここではごく簡単にその概略を述べておきたいと思います。 これまでの学習理論は、「学習」を「個人の頭の中」の記号操作と見なし、「知能」は「個人の頭の中」に宿るとしてきました。ここでは、そうした考え方のことを「個人還元的学習観」と言います。そして「個人還元的学習観」のもとでは、「知識」を如何に「効率的・効果的」に「頭の中」に「伝達」するかということが追求されるのです。CSCLの「Collaboration」は、こうした考え方に対するアンチテーゼに他なりません。それは、まとめると、以下のようになると思います。 1.学習は「個人の頭の中」の記号操作ではない。学習は学習者が環境・他者と「協調」して知識を「構築」する営みである。 「人間の有能さはひとりひとりの頭の中に詰め込めばいいというわけじゃない。そうしても、人間は有能に振る舞うことはできない。人間が有能になるのは、他人や自分のまわりのモノと「対話」することで、それらと一緒に「知」をつくりあげるときである。そうした「知」は、もはや個人個人の頭にあるわけではなく、みんなで共有しあっているのだ」 1.Authenticity
まず、「Authenticity(真正性)」とは、簡単に言ってしまうならば、「本物らしさ」という意味です。つまり、CSCLでは学習者が共同して考察するべき問題は、「本物」の問題でなければならないという意味で用いられています。そして、ここでいう「本物」とは、「社会的、文化的に考えることに意味があると認められている」という意味です。また、CSCLの実践では社会的・文化的に意味があると認められている問題を「トピック」の形で探求することが多いのですが、それは問題を「トピック」にしなければ、対話が拡散し、結局学習者自身何をやっているのかがわからなくなってしまうのを防ぐためです。 2.Scaffolding
3.reflection
「reflection」とは日本語にするならば「問い直し」くらいが適当だと思います。CSCLは知識を「構築」するだけの環境ではありません。それは同時に学習者の知識の「問い直し(再吟味)」をも支援しています。自分の学習に他者が媒介となっているCSCLでは、この「reflectionのための学習環境」としても機能しうることが期待されています。 以上、3つの概念にしぼって、「CSCLをどうデザインするか」という問いに答えてきましたが、最後に非常に誤解されやすいことを指摘しておきます。それは「意図」の問題なのですが、CSCLの目的が「知識を学習者自ら構築する」ことであるからといって、CSCLがCSCLをデザインする人の「意図」から自由になるわけでありません。教育の世界では、とかく「教え手の意図」がないことが「理想の教育」とされる傾向がありますね。CSCLは「ユートピア」ではありません。そこには、CSCL的な学びの経験をデザインする人の「意図」が、問題とされる「トピック」、使われるコンピュータ・ツールに、埋め込まれているのです。
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