新規顧客数が減少している場合に既存顧客をロイヤル化しても売上は増えないことの数学的証明
【要旨】
本論文では、企業の売上が「顧客数」と「顧客あたりの購買力」の積として表されると仮定し、売上を
$ S = N \times L
と定義する。ここで、
– $ N は企業が抱える顧客数(市場での存在感や浸透率を示す)
– $ L は1人あたりの平均購入頻度や購入単価(ロイヤルティ)
を意味する。
実際の調査では、市場シェアが低い場合、顧客数が少ないだけでなく、1人あたりの購買行動も控えめになる(これをダブルジョパディ効果と呼ぶ)傾向があります。
そこで、低シェア環境下では $ L は $ N に比例して低くなると仮定し、
code:tex
L \le kN
(ただし、$ 0 < k < 1 )と置くと、売上の上限は
code:tex
S \le kN^2
と表されます。
これにより、新規顧客数 $ N の減少は、たとえ既存顧客のロイヤルティ $ L を向上させたとしても、二乗関数的に売上 $ S を押し下げるため、総売上の増加は達成できないことを数学的に示します。
【1. はじめに】
企業の売上は、一般的に「顧客数」と「1人あたりの購買力(購入頻度や単価)」の積で決まると考えられます。
すなわち、
$ S = N \times L
と表現できます。ここで、
– $ N は企業が獲得できる新規顧客数や市場での浸透率を示し、
– $ L は各顧客が平均してどれだけ購入するか(ロイヤルティ)を表します。
しかし、実際のマーケティング調査では、ブランドの市場シェアが低い場合、単に顧客数が少ないだけでなく、既存顧客もあまり頻繁に購入しない傾向があることが明らかになっています。
これが「ダブルジョパディ効果」と呼ばれる現象です。
ここでは、低い市場浸透率の環境下では、顧客あたりの購買力 $ L が、顧客数 $ N に比例して低下するという近似関係を仮定します。
【2. 数学的モデルと前提】
まず、売上を次式で定義します。
$ S = N \times L
低シェア環境(新規顧客が少ない状況)では、調査結果から「顧客あたりの購買力」も低いと考えられます。
そこで、ある定数 $ k (0 < k < 1)を用いて、
code:tex
L \le kN
と仮定します。
これは、ブランドの市場浸透率が低いほど、既存顧客のロイヤルティが低くなることを表現しています。
このとき、売上の上限は以下のようになります。
code:tex
S \le N \times (kN) = kN^2
【3. 売上減少の数学的証明】
新規顧客数 $ N が減少する場合を考えます。
売上は、上限として
$ S \le kN^2 と表されます。
ここで $ k は定数であり、 $ N の二乗に比例して売上が決まるため、もし $ N が減少すれば、売上 $ S は二次関数的に減少します。
さらに、売上の相対的な変化率は次のように表せます。
code:tex
\frac{\Delta S}{S} = \frac{\Delta N}{N} + \frac{\Delta L}{L}
既存顧客のロイヤルティ向上策(つまり $ L の改善)を講じた場合、
理想的には$ \frac{\Delta L}{L} > 0 となるはずですが、ダブルジョパディ効果の実証結果から、実際には市場シェアの低下に伴い、
$ \frac{\Delta L}{L} \approx \frac{\Delta N}{N} となる傾向があります。
したがって、全体の相対変化は
$ \frac{\Delta S}{S} \approx \frac{\Delta N}{N} + \frac{\Delta N}{N} = 2,\frac{\Delta N}{N} となります。
ここで、もし $ \frac{\Delta N}{N} < 0 (すなわち新規顧客数が減少している)ならば、必ず
$ \frac{\Delta S}{S} < 0 となり、売上全体は減少してしまいます。
つまり、既存顧客のロイヤルティ向上だけでは、減少する $ N の効果を補いきれず、売上の増加には結びつかないという結論が得られます。
【4. 結論】
本論文では、売上 $ S を「顧客数」 $ N と「顧客あたりの購買力」 $ L の積
$ S = N \times L
としてモデル化し、低シェア環境下では、実証的知見に基づき
$ L \le kN (0 < k < 1)と仮定しました。すると、売上の上限は
$ S \le kN^2 となり、もし新規顧客数 $ N が減少すれば、 $ N^2 の性質から売上は二次的に低下します。
また、売上の相対変化率の観点からも、既存顧客のロイヤルティ向上策で $ L の改善を試みた場合でも、
$ \frac{\Delta S}{S} \approx 2,\frac{\Delta N}{N} となり、 $ \frac{\Delta N}{N} < 0 ならば売上は必ず減少します。
この数学的証明は、新規顧客獲得が減少している状況において、既存顧客のロイヤル化だけで売上を増加させることが困難であることを示しています。
【総括】
本論文は、売上 $ S = N \times L という単純なモデルのもと、ダブルジョパディ効果により低市場浸透率では $ L も低下するという実証的傾向を仮定し、
$ S \le kN^2 という結果を導出しました。
さらに、売上の相対変化率からも、もし新規顧客数 $ N が減少するならば、既存顧客のロイヤルティ向上のみでは売上は補えず、総売上は減少することが明確に示されました。
この結果は、企業が売上を伸ばすためには、新規顧客獲得と既存顧客ロイヤルティ向上の両面でバランスのとれた施策を講じる必要があることを数学的に裏付けています。