エビデンスベースドプロダクトマネジメント
エビデンスベースドマーケティングの手法をプロダクトマネジメントに応用する方法論
以下の前提を持つ
対象のプロダクトが $ MRR = MAU \cdot PUR \cdot ARPPU という収益構造を持つこと
MRR = MAU x PUR x ARPPU
対象のプロダクトが $ MAU = U_{total} \cdot P_{existing} + (N_{consumers} - U_{total}) \cdot P_{new} という構造を持つこと
MAU = U_total x P_existing + (N_consumers - U_total) x P_new
U_total: 累計ユーザー数
P_existing: 既存ユーザーがその月にアクティブになる確率
N_consumers: マーケット全体の消費者数
P_new: 未利用者がその月に新たにアクティブになる確率
対象のプロダクトの各ユーザー別の利用頻度がポアソン分布になっていること
対象のプロダクトの既存ユーザー全体での利用頻度の傾向 P_existing は負の二項分布になっていること
SaaSの既存ユーザーの利用傾向が負の二項分布になるとはどういうことか
負の二項分布のMとK インタラクティブノートブック
このとき、以下が成り立つ
$ P_{existing} = 1 - \left(\frac{K}{K+M}\right)^K
$ M: 一定期間における既存ユーザー全体の平均利用回数
$ K: 分布形状パラメーター(ユーザー間の利用頻度のばらつき)
このとき、 $ K と $ M は以下で推定できる
一定期間における $ n 人のユーザーの利用回数を調べる(全ユーザーが望ましい)
$ n 人のユーザーの利用回数を $ x_i = x_1, x_2, ... x_n とする
最尤法による推定
最尤関数の定義
$ L(K, M|\mathbf{x}) = \prod_{i=1}^{n} P(X=x_i|K, M) = \prod_{i=1}^{n} \left[ \frac{\Gamma(K+x_i)}{\Gamma(K)x_i!} \left( \frac{K}{K+M} \right)^K \left( \frac{M}{K+M} \right)^{x_i} \right )
最尤関数の最大化による $ K と $ M の推定
$ \ln L(K, M|\mathbf{x}) = \sum_{i=1}^{n} \left[ \ln(\Gamma(K+x_i)) - \ln(\Gamma(K)) - \ln(x_i!) + K \ln\left(\frac{K}{K+M}\right) + x_i \ln\left(\frac{M}{K+M}\right) \right)
最重要
あるプロダクトの既存ユーザー全体での利用頻度の傾向 P_existing が負の二項分布に従うとき、$ MRR向上のために既存ユーザーに関してプロダクトチームが真にコントロール可能な変数は$ M: 一定期間における平均利用回数 のみである。
背景:
ライトユーザー全体での平均利用回数Mが高まれば、自然とKも高まる
それ以外では、ヘビーユーザーの平均利用回数Mをめっちゃ低めればKは高まるが、それはヘビーユーザーの利用を邪魔するということであり、クレイジー
逆に、ヘビーユーザーの平均利用回数Mをさらに高めると、Kはさらに低まることになる
結局、Kそのものを直接操作することはやるべきではなくて、ライトユーザーの平均利用回数Mしか、事実上操作することで事業に良い影響が見込める=操作可能な変数は無い
プロダクトチームは製品開発とマーケティングを通じで$ M を費用対効果を踏まえて最大化する
Kから、ユーザーをセグメントするべきか、しないべきかが明らかになる
Kが小さいのであればユーザー間の差異が大きいので、セグメントするべきである
負の二項分布のパラメーターMとKに応じた打ち手を考える
Mが小さい・Kが小さい
→ Mが小さい=ユーザー全体の平均利用頻度低すぎ
→ Kが小さい=ばらつきがデカい。ごく一部のヘビーユーザーに支えられている
→ やるべきは
なぜ大多数が低頻度なのか、原因究明と製品自体の改善
Mが大きい・Kが小さい
→ Mが大きい=ユーザー全体の平均利用頻度はやや高い
→ Kが小さい=ばらつきがデカい。ごく一部のヘビーユーザーに支えられている
→ やるべきは
ヘビーユーザーの理解と中間層の底上げ
Mが小さい・Kが大きい
→ Mが小さい=ユーザー全体の平均利用頻度低すぎ
→ Kが大きい=ばらつきが小さい。ほとんどのユーザーが同様に低頻度で利用
→ 全体的に誰も使っていない
→ やるべきは
皆が一様に低頻度である根本的な理由の徹底的な調査
→ 改善を実行
→ 改善できたら新規ユーザー獲得を実行
Mが大きい・Kが大きい
→ Mが大きい=ユーザー全体の利用頻度はやや高い
→ Kが大きい=ばらつきが小さい。ほとんどのユーザーが同様に高頻度で利用
→ やるべきは
ユーザーの満足度の要因を特定して維持
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$ ARPPUは真にコントロール可能な変数か?
対象のプロダクトが $ MRR = MAU \cdot PUR \cdot ARPPU という収益構造を持つとき、
$ ARPPU が増加すると $ PUR が減少し、$ ARPPU が減少すると $ PUR が増加する、という反比例の関係にあることが多い
どれほど減少したり増加するかは、市場におけるプロダクトの需要によって異なる
これをプロダクトの需要の価格弾力性という
需要の価格弾力性 $ e(p) = \frac{dQ/Q}{dP/P}
つまり、このとき、$ PUR と $ ARPPU は以下の関係にある
$ PUR = \frac{k}{ARPPU}
であり
$ ARPPU = \frac{k}{PUR}
$ ARPPUは確かに自由に変更できるが、本当に変更したいのは$ MRRのはずである
式 $ MRR = MAU \cdot PUR \cdot ARPPUにおいて
$ ARPPUと共に $ MRRを左右する$ PURは$ ARPPUと反比例の関係にあり、
$ PURを自由に変更することはできない
$ MRRを変更したいとして、$ ARPPUだけを変更するのは意味がない
よって、 $ ARPPU は、真にコントロール可能な変数ではない
$ ARPPU は、以下に書くように、PSM分析などを通じて需要に応じて適切に決めなければ、$ MRRを向上するどころか、下げてしまいかねない
エビデンスベースドの $ ARPPU の決定方法:PSM分析
PSM分析では、マーケットの消費者に価格に関する4つの質問をすることで、以下のような価格を導き出す
質問
Q1. その商品「P」 は、いくらぐらいから「高い」 と思いますか。
Q2. その商品「P」 は、いくらぐらいから 「安い」 と思いますか。
Q3. その商品「P」 は、いくらぐらいから 「高すぎて買えない」と思いますか。
Q4. その商品「P」 は、いくらぐらいから 「安すぎて品質が疑わしい」 と思いますか。
導き出される価格
最低品質保証価格(下限価格, 最低価格)
PMC(Point of Marginal Cheapness)
妥協価格
IDP(Indifference Price Point)
最高価格(上限価格)
PME(Point of Expensiveness)
理想価格(最適価格, 浸透価格)
OPP(Optmum Pricing Point)
エビデンスベースドプロダクトマネジメント