勇気
東畑開人:なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない 文庫版あとがき
実際、日々の臨床をしていて、もっとも感動するのは勇気に出会ったときだ。学校を怖がっていた子どもに、ある夜に勇気が出て、ランドセルに教科書を詰め始める。上司を怖がっていた青年にあるとき勇気が湧いて、きちんと自分の事情を上司に伝え、今後について話しあうことができる。
きっかけはよくわからない。勇気を出させることはできない。背中を押しても、スイッチを押しても、勇気は出ないときには出ない。でも、どこからか勇気は霧のように立ち上ってきて、自分で自分の背中を押すことがときに起こる。
yosider.iconが何か行動を起こすときは、それをしないでいると深刻なダメージを受けることになることが明らかに思え、それをすることが自分の中で必然になったとき、である気がする
必然性がないと動けない
心の持つこの力を、私はいつも奇跡のようだと思う。しかし、それは海が割れるほどの奇跡ではなく、虹が出る程度の奇跡である。心とはそういうものだと私は思っている。
勇気は出させるものではなく、自然に出るものである。雨乞い師が雨が降るまで待つ仕事であるのと同じように、臨床家も勇気が出るまで一緒に待つ仕事だ。
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