投資は消化されている。では、価値は増えているのか?
最初に要約
プロジェクトを工数だけで見積もるのではなく、まず「どんな変化に、いくらまで投資する価値があるのか」を置いてみる。
そのうえで、投資を消化しながら、機能が増えたかではなく、顧客や業務にどんな変化が起きたかを見ていく。
そして、その変化をもとに、投資を続けるのか、やり方を変えるのか、そもそもの目標を見直すのかを判断していく。
得たい変化から投資を考える
プロジェクトを見積もるとき、私たちはつい工数から考えてしまいます。
この機能を作るには何人月かかるのか。
開発費はいくらになるのか。
いつまでに終わるのか。
もちろん、工数の見積もりが不要だという話ではありません。 人をどう配置するか、どれくらいの期間が必要か、どれくらいの費用がかかるかを考えるうえで、工数は必要です。
ただ、工数から考え始めると、話が「どれくらい作業するか」に寄りやすくなります。
本来、最初に考えたいのは、何人月かかるかではなく、そのプロダクトや機能によって、どのような変化を起こしたいのか。その変化に対して、いくらまで投資する価値があるのか。 ということではないでしょうか。
たとえば、ある見積もり業務に現在4時間かかっているとします。
このとき、最初に出てくるのは「何人月か」ではなく、得たい変化です。
この業務を1時間で終えられるようにしたい。もしそれが実現できるなら、3000万円くらいは投資する価値があると考える。
もちろん、この3000万円という数字が最初から正確に算出できることは少ないので、「この変化には、それくらいの価値があるのではないか」という投資仮説を置く。
そのうえで、それを実現するために必要な人件費、AIのライセンス料、クラウド費用、外部サービス利用料などを見積もります。仮に、それらを合わせて月400万円かかるとします。そうすると、3000万円の投資上限に対して、約7.5ヶ月は投資できる計算になります(3000万円 ÷ 400万円 = 7.5ヶ月)。
つまり、無限に開発を続けられるわけではありません。この投資期間の中で、狙った変化に近づいているかを見る必要があります。
繰り返しになりますが、ここでは「その機能を作るのに何人月かかるか?」から始めていません。先に置いているのは、得たい変化と、その変化に対する投資仮説です。
投資は消化されていく
1か月目に400万円を使って、ベースとなる機能を作ったとします。バージョン1.0、あるいはベータ版をリリースした。
この時点で、投資上限3000万円のうち、400万円を使っています。
2か月目には、さらにいくつかの機能をリリースし、プロダクトのできることが増えました。累計投資額は800万円になっています。
ここで見たいのは、予定していた機能がどれだけ完成したかだけではありません。
800万円を使った結果、プロダクトはどう変わったのか。
顧客や業務にはどのような変化が起きたのか。
たとえば、4時間かかっていた業務が3時間になっていれば、1時間短縮されたということです。もともとの目標が1時間になることだったので、目指している変化の一部は起きていると言えます。ここで見たいのは単純な達成率だけではありません。
800万円を使って、4時間が3時間になった。
これは投資に見合っているのか。
このまま続ければ、1時間まで到達できそうなのか。
それとも、思ったより効果が出ていないのか。
あるいは、すでに十分な価値が出始めているのか。
こうしたことを、毎週・毎月の単位で見ていくことが大事です。
機能が増えることと、価値が増えることは違う
プロダクト開発では、時間が経つにつれて機能が増えていきます。
ベースとなる機能ができる。
補助的な機能が追加される。
画面が増える。
できることが増える。
しかし、機能が増えたからといって、価値が増えたとは限りません。
むしろ、機能を追加したことで、確認項目が増えて、利用者の負担が増えることもあり、業務が複雑になることもあります。
これまで3時間まで短縮できていた業務が、新しい機能によって3.5時間に戻ってしまうこともあるかもしれません。
もちろん、それが必ず悪いとは限りません。
時間は少し長くなったけれど、見積もりの精度が上がったのかもしれない。確認漏れが減ったのかもしれない。新人でも見積もりできるようになったのかもしれない。顧客への説明がしやすくなったのかもしれない。
大事なのは、機能が増えたかどうかだけを見ることではありません。
その機能によって、顧客や業務にどのような影響が起きたのかを見ることです。
もしそのような良い影響が何も起きていないのであれば、機能は増えていても、利用者にとっての価値は増えていないのかもしれません。
投資額も、効果も、揺れ動く
最初に月400万円で進められると思っていたとしても、実際には変わることがあります。
技術的に難しいことがわかった。
追加で人が必要になった。
AIやクラウド費用が想定より増えた。
そうすると、月400万円だった投資額が、月500万円になるかもしれません。
投資上限が3000万円だとすると、月400万円なら約7.5か月使えますが、月500万円になると6か月になります(3000万円 ÷ 500万円 = 6か月)。
同じ投資上限でも、毎月のコストが変われば、使える時間も変わります。
一方で、効果も揺れ動きます。
ある機能によって業務時間が短くなることもあれば、逆に長くなることもある。
一部の利用者には効果があるけれど、別の利用者にはあまり効果がないこともある。
短期的には使いにくくなったように見えるけれど、慣れると効果が出ることもある。
プロダクトの価値は、直線的に増えていくとは限りません。
だからこそ、投資額、プロダクトの変化、顧客への影響を並べて見ていく必要があります。
目標そのものが変わることもある
さらに、最初に置いた目標そのものが変わることもあります。
最初は、見積もり業務を4時間から1時間にしたいと思っていた。けれど、実際に顧客の話を聞いてみると、2時間で十分だとわかるかもしれません。
1時間まで短くすると、むしろ確認が雑になる。
速さよりも、見積もりの妥当性や安心感の方が大事だった。
時間短縮よりも、属人性を下げることの方が重要だった。
この場合、進んでいく中で、目指す変化の解像度が上がったと言えます。
最初の目標は、固定するためだけに置くものではなく、学習するために置くものでもあります。
何も置かなければ、何が変わったのかもわかりません。最初に「4時間を1時間にしたい」と置いたからこそ、「実は2時間で十分かもしれない」と気づくことができた。
そう考えると、プロジェクトの管理は、最初に決めた計画に対して進捗を追うだけでは足りません。
投資しながら、作りながら、顧客の反応を見ながら、そもそも目指す変化が妥当だったのかも見直していく必要があります。
進捗管理ではなく、投資と変化の管理
プロジェクト管理というと、予定した作業がどれだけ終わったかを見ることが多いかもしれません(もちろん、それも必要です)。ただ、それだけでは、投資に対して価値が増えているのかはわかりません。
1か月で400万円使った。
2か月で800万円使った。
プロダクトには機能が増えた。
では、その結果、顧客や業務にはどんな変化が起きたのか。
4時間かかっていた業務は、3時間になったのか。
利用者はその機能を使い始めているのか。
業務の精度は上がっているのか。
属人性は下がっているのか。
顧客にとって、本当に意味のある変化が起きているのか。
こうしたことを見ることで、プロジェクトを単なる作業の進捗ではなく、投資と変化として扱えるようになります。
詰問ではなく、学習のために見る
ただし、この見方には注意も必要です。
「400万円使ったけれど、何が変わったのか」「800万円使って、まだ3時間なのか」
こういう問いは、使い方を間違えると、現場を詰める言葉になります。でも、本来これはチームを責めるための問いではありません。
投資判断の透明性を高めるための問いです。早く学び、方向転換するための問いです。このまま続けるのか、やり方を変えるのか、目標を見直すのかを判断するための問いです。
価値が出ていないなら、チームを責めるのではなく、仮説や手段を見直す。
目標がずれていたなら、目標を見直す。
手段が合っていないなら、手段を変える。
投資額が増えすぎているなら、続ける理由を改めて確認する。
そのために、投資と変化を見ていく必要があります。
投資は消化されている。では、価値は増えているのか?
プロダクト開発では、予算は確実に消化されていきます。人件費も、ライセンス料も、クラウド費用も、時間とともに積み上がっていきます。
一方で、価値は自動的には増えません。
機能が増えても、価値が増えているとは限らない。
作業が進んでも、顧客の状態が変わっているとは限らない。
当初の目標に近づいていても、その目標自体が今も妥当とは限らない。
だからこそ、問い続けたいのです。
いくら使ったのか。
何ができたのか。
その結果、顧客や業務にどんな変化が起きたのか。
その変化は、今も投資する価値があるものなのか。
その問いへの答えが、「続ける」「やり方を変える」「目標を見直す」という判断になっていく。
プロジェクトを工数だけで見るのではなく、投資と顧客への影響として見ていくことで、プロダクト開発は「予定した作業を終わらせる活動」から、「価値ある変化を生み出すための投資活動」として扱いやすくなるのではないでしょうか。
この記事で扱いきれなかったトピック
今後、書いていく予定です。
投資上限(今回は3000万円)をどう決めるのか?
顧客への影響はどう測るのか?
途中で目標を変えて良いなら計画の意味はあるのか?