編集工学
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「生涯一編集者」をモットーとする松岡 正剛が提唱する編集工学(Editorial Engineering)は、人間の思考や社会のコミュニケーション・システムや創造性にかかわる総合的な方法論である。その創始は日本がまさに情報化時代に突入していく1980年代に遡る。当時の情報科学がもっぱら情報の記号的・データ的処理を前提としていることに対し、松岡は、生涯を通じて各種編集、プロデュースにかかわる中で、いちはやく人間の意識や感情や行為のともなう「意味情報」に着目し、それらが生成され交換される“生きた情報システム”を扱っていくための方法論の構築に向かった。 松岡によるとその理論的背景には、当時三つの思想・研究動向、すなわちフランス思想界やアメリカ文学界で流行した「ディコンストラクション」(脱構築)、広範な科学の分野で提示されつつあった「自己組織化理論」、マーヴィン・ミンスキーなどによる認知科学と人工知能の研究動向があったという。 このように編集工学は、「知」が寸断されたまま大量に流通されていく情報洪水時代到来の予見と、現代思想の提示する「知のコンセプト」や「知のモデル」の統合化の必要性という、時代の要請にこたえるかたちで、生み出されたものであるといえる。 編集工学の扱う領域、すなわち“編集素材”は非常に広範なものである。松岡の整理によると、まずその領域には
身体に起因するもの
好みから発するもの
直観あるいは啓示によるもの
学習性の堆積によるもの
表現構成が喚起するもの
ゲーム適用によるもの
図像にひそむもの
物語が伝えるもの
歴史に内属するもの
合理的再現性によるもの
日常性によるもの
がある。このそれぞれから発せられる情報には、数値情報・事物情報・現象情報・解釈情報・理論情報・心理情報・図像情報・様式情報・構造情報・物質情報・時間情報・音響情報・物語情報・報道情報など25の様式がある。
一方、これらを扱っていくための「編集方法」として、松岡は、「データ情報」を扱うための基本技法である収集・選択・分類・流派・系統の5つの「編纂」(compile)と、「意味情報」を扱うための基本技法である要約・模型・順番・交換・適合・共鳴・比喩・図解・注釈・暗示・擬態・変容・歪曲・装飾・保留・構造・焦点・劇化・遊戯・翻訳・周期など59の「編集」(edit)の、あわせて64の編集技法を体系化している。 ちなみに、この「64編集技法」体系の最後には、“総合”と“創造”が挙げられているのだが、ここに松岡独自の編集哲学が発揮されているのを見ることができる。松岡は“総合”を「以上のすべての組み合わせ」とし、“創造”を「以上のすべての組み合わせ以外の創造」であるとしている
「編集術」「編集工学」は、体系化された方法の"型"をエクササイズすることによって、情報編集の技術を手軽に修得できるプログラムであり、書籍や映像など編集業務における専門性の強化、ビジネスにおける企画力、教育や人とのコミュニケーションからクリエイティブワークにおける表現力の向上まで、あらゆる分野での応用性を目指している。編集工学を学ぶための場として開かれているWeb上の学校「イシス編集学校」では、一般の主婦から学生、編集者、プランナー、デザイナー、アーティストなど、様々なジャンルの人々が、松岡正剛の編集的方法を学んでいる。