セミラティス
哲学者の市川 浩は『<身>の構造』所収の「<身>の構造とその生成モデル」なる論考の中で、セミ・ラティスをツリーとの対比で次のように説明している。「ツリーが、二つの集合が全く重ならないか一方が他方に完全に含まれているという形式をとるのに対して、セミ・ラティスは互いに重なりあった集合を含んでいる、という点が特徴である。前者は官僚組織や軍隊に典型的に見られるが、後者はアメリカ経営学でマトリックス型経営システムと呼ばれているものである」 アレグザンダーは長い年月をかけて自然にできあがった都市(「自然の都市」)に、互いに関係をもつ物質的要素の集合(セット)が重なり合いながら集まるセミラティス構造を見出した。一方で、建築家・都市計画家による近代の都市計画や田園都市計画を例に挙げ、それらがセミラティス構造(セットの重なり合いを含む構造)のごく特殊なひとつの場合にしかすぎないツリー構造(セットの重なり合いをまったく持たない構造)をしていると述べた。セミラティス構造とツリー構造、これら2つのダイアグラムは、前者が後者に比べ多様な要素の集合を形成する可能性をもつことを示している。アレグザンダーは「自然の都市」に執着する保守主義を自身に認めながらも、建築家・都市計画家が「自然の都市にあって我々に活気を与えてくれるものを近代的な形で蘇らそうとしている」ことの重要性をふまえその現状を批判した。そして、「自然の都市」に備わる抽象的な秩序に対してさらなる研究の必要性を説いたのち、「都市はツリーではない」の理論をより具体的な設計ツールの開発へと展開させて、77年に「パタン・ランゲージ」を発表した。本論文は、建築家の磯崎新、評論家の柄谷行人をはじめとした、日本におけるポストモダンの都市論に大きな影響を与えた。