medium 霊媒探偵城塚翡翠
大仕掛けのようで、その実とても端正な工芸品のような作品
めっちゃ重層的で底の知れない作品。霊媒とミステリ作家のバディものという「飛び道具」的な建付から、すでに作者の目論見は始まっています。
主人公が結局どんな人物だったのかすら、はっきりとは書かれておらず、この1冊限りでは読者の印象に委ねられています。読み手によって色々な印象なのではないかと。
「日常の謎」めいた、奇想ではなく観察に根ざしたトリック、流行りの小説の文体や構成、世間が作者に貼っているレッテルすら逆手にとった叙述トリック、それらが単なる騙しに留まらず、読者へのヒントにもなっているフェアネス。さらには、この作品そのものすら対象に含めたミステリ批評の趣向まで凝らされています。装幀がまた見事で、各話の表紙も含めて、実によく心配りされています。
1冊にここまで惜しげもなく詰め込んでしまってこの先どうするのか…と余計なことを考えてしまうほどでした。
巻の半ばくらいまで「話題の作品っつても、最近こんなもんだよなぁ」とページを捲る手が惰性になりかけた人ほど、最後の90ページに快哉を叫ぶのではないかと思います。ぼくはそうでした。
繊細な工芸品のようなこの作品を、これから何度かは読み返します。きっとその度に新たな発見があるでしょう。
Amazonのレビューを読んでいると、著者の作品にはアンチめいたものが一定数投げ込まれている。まあ、気に入らなかったんだろうから、それはそれで正直な感想かもしれない。
ただし、この作品に「ライトノベル」というタグが貼られているのは、読み方が浅すぎる。
この作品は、ライトノベル的な記述を、叙述トリックに使っているだけ。作者自身がライトノベルの書き手でもあり、世間にそのように認知されていることすら利用して、ラスト90ページですべてをひっくり返すために、あえてライトノベルの書式に則った書き方をしているのだ。一部の登場人物ばかりがディテール描写が「無駄に濃厚」で、一部の主要な登場人物は明らかに「書けていない」。それすらも叙述トリックなのであり、作品の感想はいろいろあってかまわないが、ちゃんとこの作品を読み切ったなら、この作品をライトノベルと割り切るのは明らかに間違っている(ライトノベルだから/でないから、優だとか劣だとか論じるつもりはない。ただ、本作がライトノベルっぽく書かれているのは、技巧的な理由からだ)。装幀がライトノベル的であることすらトリックであり、しかも、装幀画に描かれた人物の佇まいが明確に意味を為すのも最終章に至ってからなのだ。
中盤まで読んで「なんだかなぁ」と思うのは当たり前で、読者の一部がそこで巻を置いてしまうかもしれないリスクを、作者は敢えて冒したのだろうと察する。アイディアと技巧がこんな形で組みたてられた作品を初めて読んだ。濫読というほどミステリを読んでいるわけでもないけれど、数百冊は読んできた。そのうえで今、ここまで新しい衝撃に打ちのめされるのは、歓びでしかない。
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200119