invert 城塚翡翠倒叙集
城塚翡翠シリーズの単行本2冊目で、3編の中編を収めている。うち、2編目は雑誌に掲載された作品で、これを挟む1編目と3編目が書き下ろし。前作「medium」が、連続死体遺棄事件を縦糸とする中短編集だったのに似ているが、もはやそれすらも作者の「仕掛け」だ。
何を書いてもネタバレになりそうなのは前作と同じだが、表題の通り3編とも倒叙形式を採っている。冒頭で犯人による犯行が描かれ、物語の途中から探偵役が登場し「犯人はどこでしくじったか?」を探りだしていく形式。「倒叙」という用語が浸透しているかどうかはさておき、「古畑任三郎」シリーズのおかげで、日本ではお馴染みになっている。ぼくが初めて倒叙形式を意識して読んだ推理小説は佐野洋「轢き逃げ」。「倒叙」という用語もそれで知った。
「invert」は、クラシカルな倒叙形式をしっかり踏襲しているが、それだけでは終わらない。城塚翡翠シリーズで一貫している要素に奇術(マジック)がある。探偵役の城塚翡翠は趣味でかなり高度なマジックを嗜み、マジックが客を欺き、驚かせる方法論や構造について語る。「客を欺き、驚かせる」という点はミステリにも通じ、「medium」においても、作中で語られるマジックに関する論述が、作品全体の構造と重なり、1冊のミステリが、マジックとして機能するという超絶技巧を披露した。
それは「invert」でも繰り返される。3編目の作中にマジシャンが登場し、彼女が披露したマジックの構造を城塚翡翠が言語化する。その構造が「invert」という1冊の中編集全体にも仕組まれていたことに巻末に至って気づかされ、ゾクッとした。これはトリックではなく、マジック。そこにシビれた。そのマジックは、犯人が仕組んだものでも、探偵が解き明かしたものでもない。作中人物が知ることのないメタレベルで、作者が読者に仕掛けたマジック。
相沢沙呼というマジシャンが、客である読者に向けて、3つのマジックを披露する。趣向は「演目はすべて、倒叙ミステリ」。作者がどの時点でこの「ショー」の構成を着想したのかは確然としないが、冒頭と末尾の2作が書き下ろしであることに、深く納得させられる、実に凝った仕掛けの中編集。ハードル上がってる気もするけど、3冊目の単行本も楽しみだ。
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