Gender Modality
ここ2年ほど、英語圏のみならず日本語圏のジェンダー・セクシュアリティ周りを論じる研究コミュニティでも使われ始めていると感じ、かつ使い勝手が良いと思うので、自分の整理も兼ねて。
私自身が掴めてないので、わかる方教えてください
初出
トロント大学の法哲学(専門はbioethics)の博士候補生。
"Trans Bodies, Trans Selves"読んでみたいな
日本だと、三木那由他氏の呟きとかあたりだったかしら 「言葉の展望台」は要チェック?
意味
自身の(性別に関する)アイデンティティと、出生時に割り当てられた性別との関係性を説明するカテゴリ
"how someone’s gender identity relates to their sex assigned at birth"
このカテゴリに位置する要素として、具体的には「シス(ジェンダー)」や「トランス(ジェンダー)」。だけど必ずしもこの二項だけしかないわけではない
Florence氏的には、NBiの人々、Aジェンダーの人々、インターセックス/DSDsの人々、ジェンダー・クリエイティブな人々などの経験を指すためのさらなる用語が考案されることを期待している
日本語訳
まだ定訳はなさそう。「ジェンダー様相」(武内 2021)、「性様式」「ジェンダー・モダリティ」(三木 2021)とか。
この語の意義
自分の所感として。この語があることで、この辺のことに焦点を当てられそうなこと:
ジェンダーに時間性を導入できる
端的に言えば、出生時に割り当てられた性別との「距離」の話をしているので、2点以上(例えば「トランス」であれば出生時と現在の2点、将来的には3点以上の点を説明するカテゴリが生まれるかもしれない)の時間の性別に関する話をしているんだよ(しなければいけないんだよ)ということを伝えることを可能にする語彙
性別について言及する時、どこか1時点の「性別」(しばしば出生時の性別や戸籍上の性別)でしか語れないという状態に対して問題提起できる
トランスジェンダーをgender modalityの話であると再定義することにより、「トランスジェンダー」をアイデンティティカテゴリと見なすことで生じる混乱から脱出できる
つまり、ここでのトランスジェンダーは、サードジェンダー(「第3の性別」)という意味というより、より包括的な使われ方(いわゆる「広義のトランスジェンダー」)に近い。
例を挙げるとするなら、性別欄に対して違うカテゴリの話をごちゃ混ぜにしている(カッコよく言えば、「カテゴリ・ミステイク」)と説明することができる
イメージとしてはこんな感じ↓(ゲスト講師やった時に使ったスライド)
https://scrapbox.io/files/63da2c4829ce5d001f697222.png
分析上、gender modalityが原因の差別とgender identityが原因の差別を分けることができる
例えば、性別移行が特殊、異常なものとみなされ社会の中で想定されないことで、性別移行することをdiscourageされることや、医療アクセスの確保が進まないという問題は、gender modalityに関するノーマティビティが機能しているのではないかと言える
これはgender identityがbinaryな人でもnon-binaryの人でもおこりうる
一方で、社会の中で制度化されており、自身が「生きる」ことが可能な性別がある/ないと言う問題があるが、これはgender identityに関係している
これはgender identityがbinaryな人だと問題にはなりにくいが、そうでない人(e.g. Aジェンダーとか、NBiアイデンティティの人)にとってはとても大きな問題になりうる
気になる点
「トランス」というカテゴリを、何を「トランス」したかどうかで経験が異なるけど、gender identityの話に集約させることによって平滑化されるという問題はありそう。これはgender modalityという概念の問題ではないけど...
e.g. 生活上の性別を移行する経験をトランスという言葉で表す、表したい人はいるはず。
見た目や社会上の「移行度合い」のみに焦点を当てるような議論がまずいから、gender identityに集約させることにしたんだろうけど...