トランスの子供とバックラッシュに対する英語圏の対抗言説について
某カドカワ本(Irreversible Damageの邦訳本)がもし日本の市場に流通した場合,英語圏におけるトランスの子供(特にトランス男性やノンバイナリー)に対する,アイデンティティの毀損や身体的な治療の脱正当化の言説が輸入されてしまう
触れ込みやタイトルは特例法4号要件違憲を見据えた悪質なもので,バックラッシュを持ち込もうとする意図が垣間見える
おそらく最も影響を受けるのは思春期のトランス医療.日本はいまだ(ブロッカーが高額ということもあるが)思春期のホルモン治療が進んでいない.そんな状態でこの言説が入ってくるのは,子供のトランス医療の後退を招く
医療言説を見ていると,日本の医療者はしばしば「8割の子供は治る」言説やROGDを無批判に引用する人もいる(i.e. 未成年のトランス医療を進めないための圧力が揃っている)ので,これが浸透してしまうとより大変なことになるだろう.....
そこで,これらの言説がいかに問題なのか,関連する英語圏の論文について,思い出したら逐一まとめる
ちょっと今週忙しいので隙間時間にやります
雑誌記事とかもあげたほうがいいか..? ネット記事は色々あるけど省略
いわゆる「ROGD(Rapid Onset Gender Disphoria,「突発的な性別違和」)」は特に証拠ない.Littman 2018が有名だがこの論文は修正がすでに出されており,信憑性はない.でも政治的にめっちゃ利用される
ブロッカーやってる子どものアイデンティティは安定している,既存研究は「ジェンダー非定型な行動」で線びいてたせいで成長してもGIDのままであるパーセンテージが過小に評価されていた
医療ガイドラインの現在地(=書籍で想定されている未成年のトランスの医療の現状が,いかに現実を反映していないか)
SOC-8の,Chapter6および7.思春期(Tanner2期以降)の子供には,ブロッカー.それに至るまでにはメンタルヘルスの専門家によって,違和感が継続していること,インフォームドコンセントが取れることのアセスメントが必要.また,思春期以前の子供には身体に対する治療は推奨されていない もっと言えば,このガイドラインは出たばっかりで日本の医療従事者もよく読んでいない人は多いと思う.SoC-7は邦訳チームがあった
(「50倍」の説明)
(日本の子供の医療実態に関する研究は,不足してる.数字として使えるとしたら2017年のGID学会誌に乗ってた,ブロッカー適用数が二桁ちょいしかないっていう統計?)
Puberty Blockerについて
Costa et al.(2015) コホート試験.心理的サポートとブロッカーを受けている101人の患者を、心理的サポートのみを受けている100人の患者との比較.ブロッカーがある方が子供の幸福度(CGAS)が高い Giordano and Holm 2020 ブロッカー治療はRCTがない!EBMじゃない!とかいう人たちに対する応答.ブロッカー治療のRCTは倫理的にも問題で,結果的に交絡変数が多くなる(治療しないグループはドロップアウトしたり、生きるために自分でホルモン入れる)ため実施が困難であるため,RCTは現実的ではない。コホート研究が適切で、実際そのレベルではエビデンスはある これに通ずるが、EBM=「信頼できるエビデンス」(=RCT&メタアナリシス)に頼ること(それがなければEBMじゃない)と考えてる人は、ちゃんとSackettとか読んでEBMを勉強したほうがいいと思う。EBMとは得られる最良のエビデンスと、経験則を統合して治療方針を決定するという理念で、RCTがなきゃ証拠がないということではない。それだと希少疾患は全部治療不可能になる。
科学上の現在地(=書籍が示す「科学的根拠」がいかに問題か)
レトリック上の問題点(=書籍の書きぶりが,いかにトランスの人々を貶めるような表現・表象になっているか)
de/re-transitionerのナラティブについて(=性別移行をしたが,再移行をした人たちが,その実態に反していかに「可哀想な被害者」として描かれてしまっているか)
(Detransitionの人たちの語り)
ちなみに,告発の証拠となっている陰謀論者やキリスト教右派たちを含む「反トランス活動家」のやりとりは,にてアーカイブになってる こういった論文を翻訳した論集作りたいな...元の本のタイトルをもじったウヨク本っぽい書名にしてさ(「あの人もトランスヘイターになった:SNSで伝染する差別言説の「真実」」とかなんとか?)